善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

BOOK

自分が住む土地の記憶と未来 中島京子「うらはぐさ風土記」

中島京子「うらはぐさ風土記」(集英社)を読む。 肩の力を抜いたエッセーふうの読みやすい小説。最後のほうはドラマチックになって、ストンと胸に落ちるものがあった。 アメリカ・カリフォルニア州の私立大学で日本語を教えていた52歳の沙希(さき)は、8歳…

池波正太郎と牧野富太郎

日本の植物分類学の先駆者、牧野富太郎をモデルに、現在放送中のNHKの連続テレビ小説「らんまん」。 戦後を代表する時代小説・歴史小説作家である池波正太郎が、富太郎の半生を劇化した芝居の脚本を書き、短編小説にもしているというのを知り、興味を持った…

マイクル・コナリー「正義の弧」と「ブルームーン」

マイクル・コナリー「正義の弧」(講談社文庫・上下巻、訳・古沢嘉通)を読む。 原題「DESERT STAR」 長年のファンであるマイクル・コナリーが著した37冊目のミステリー長編。ロサンゼルス市警未解決事件班担当刑事レネイ・バラード&退職した刑事でとっくに…

〈記憶〉をめぐる冒険「ミン・スーが犯した幾千もの罪」

トム・リン「ミン・スーが犯した幾千もの罪」(鈴木美朋・訳、集英社文庫) 原題「 The Thousand Crimes of Ming Tsu」 中国系アメリカ人のガンマンが主役の異色の西部劇小説。 大陸横断鉄道完成間近のアメリカ西部。妻エイダを奪われ、不当な罪を着せられた…

警察小説変じて歴史ロマン「真珠湾の冬」

ジェイムズ・ケストレル「真珠湾の冬」(訳・山中朝晶、ハヤカワポケミス、原題「FIVE DECEMBERS」) ハードボイルド&ミステリー小説として読み始めるが、警察小説として始まった物語はやがて太平洋戦争下を生き抜く男の魂の彷徨を描いていく。原題の「FIVE…

数学者訪問 輝数遇数 PARTⅡ

現代数学社刊「数学者訪問 輝数遇数(きすうぐうすう)PARTⅡ」を読む。 写真・河野裕昭、文・内村直之・亀井哲治郎・里田明美・冨永星・長谷川聖治・吉田宇一。 京都市にある現代数学社は主に数学の専門書などを出版し、数学を通じて社会に貢献することをめ…

最近読んだ本

最近読んで、よかった本。 松井今朝子「愚者の階梯」(集英社) 「壺中(こちゆう)の回廊」(2013年)、「芙蓉(ふよう)の干城(たて)」(18年)に続く歌舞伎ミステリーの第三弾。 舞台は昭和10年(1935年)。歌舞伎が盛んだった一方で、キネマ(映画)が…

アイスランド発のミステリー 「印 サイン」

北欧アイスランド発のミステリー、アーナルデュル・インドリダソン「印 サイン」(訳・柳沢由実子、東京創元社)。 レイキャヴィク警察の犯罪捜査官エーレンデュルを主人公とするシリーズの第6作目。 3作目にあたる「湿地」と次の「緑衣の女」で2年連続して…

明晰な頭脳の少年名探偵 「ロンドン・アイの謎」

シヴォーン・ダウド「ロンドン・アイの謎」(越前敏弥訳、東京創元社)を読む。 ヤングアダルト(YA)向けの小説のようで、アイルランドのすぐれた児童書、YA作品に与えられる賞であるビスト最優秀児童図書賞を受賞しているが、明るくユーモラスな語り口が魅…

最近読んだ本「噤みの家」「竹本義太夫伝 ハル、色」

リサ・ガードナー「噤(つぐ)みの家」(訳・満園真木、小学館文庫)を読む。 原題「NEVER TELL」 3つの関係のないと思われた事件がやがて1つにつながっていく。 これだからミステリーはおもしろい。 ボストンの住宅街。高校の数学教師のイヴリンが家に帰る…

リューイン「祖父の祈り」とコナリー「潔白の法則」

マイケル・Z・リューイン「祖父の祈り」(田口俊樹訳、ハヤカワ・ポケット・ミステリ) 「アルバート・サムスン」シリーズや「パウダー警部補」シリーズのマイケル・Z・リューインの最新作。 1942年生まれだから今年80歳になるはずだが、健在を示す一作。 未…

清少納言と紫式部 確執の裏に「フグ中毒事件」と「嫉妬の炎」?

池内了「清少納言がみていた宇宙と、わたしたちのみている宇宙は同じなのか?――新しい博物学への招待」(青土社)を読む。 池内了(いけうち・さとる)は名古屋大学名誉教授で天文学者・宇宙物理学者。 これまでも「司馬江漢――江戸の『ダ・ヴィンチ』の型破…

好奇心が育む天文学 「江戸の宇宙論」

池内了(さとる)「江戸の宇宙論」(集英社新書)を読む。 池内了は日本の天文学者、宇宙物理学者。 今や日本の天文学はノーベル物理学賞を得るまでになっているが、そのルーツは江戸時代に在野で活躍した「天才たち」の功績にまでさかのぼる、と本書ではい…

能の指南書のような小説 青山文平「跳ぶ男」

青山文平「跳ぶ男」(文春文庫)を読む。 江戸時代を舞台とした時代小説だ。 時は江戸後期、表高も実高も2万2千石しかない貧しき小藩・藤戸藩。領地の大半が高い台地にあるというギアナ高地みたいな国であるため、川が流れてもみんな隣国に行ってしまい、作…

歴史の旅を楽しむ アビール・ムカジー「阿片窟の死」

アビール・ムカジー「阿片窟の死」(田村義進訳、ハヤカワポケットミステリーブック)を読む。 「カルカッタの殺人」「マハラジャの葬列」に続くインド帝国警察ウィンダム警部&バネルジー部長刑事の活躍を描く歴史ミステリーの第3弾。 著者は1974年生まれの…

「修道女フィデルマ」から学ぶ男女同権

ピーター・トレメイン「修道女フィデルマの采配」(田村美佐子訳、創元推理文庫)を読む。 7世紀のアイルランド・モアン王国(現在のマンスター地方)を舞台に、修道女で王の妹、弁護士・裁判官の資格も持つ美貌の女性フィデルマが探偵役をつとめるシリーズ…

今だからこそ 香月泰男と立花隆

先日、東京・練馬区立美術館で、抑留体験を描いた「シベリア・シリーズ」で知られる画家・香月泰男(1911~1974年)の大規模回顧展である「香月泰男展」を観て衝撃を受け、香月泰男とはどんな人かますます興味を抱いたところ、昨年4月に亡くなったジャーナリ…

最近読んだミステリー

遅ればせながら、ホリー・ジャクソン「自由研究には向かない殺人」(服部京子訳、創元推理文庫)を読む。 原題は「A GOOD GIRL'S GUIDE TO MURDER」。 17歳の女子高校生ピップは、学校の課題である自由研究のテーマとして警察の捜査とメディア報道との関係を…

台湾発ミステリー 台北プライベートアイ

紀蔚然「台北プライベートアイ」(船山むつみ訳、文藝春秋)を読む。 台湾発のミステリーというので手にとる。 作家で大学教授でもある呉誠(ウ―・チェン)は若いころからパニック障害と鬱に悩まされてきた。ある日、日ごろの鬱憤が爆発して酒席で出席者全員…

本年度のエドガー賞受賞作 ブート・バザールの少年探偵

ディーパ・アーナパーラ「ブート・バザールの少年探偵」(坂本あおい訳、ハヤカワ・ミステリ文庫)を読む。 原題は「Djinn Patrol on the Purple Line」。 少年の目を通して描いたインド社会の闇。インドのスラム街の匂いや気配が伝わってくる小説。 先日は…

人は一人では助からない 天使と嘘

マイケル・ロボサム「天使と嘘」(越前敏弥訳、上下巻、ハヤカワ・ミステリ文庫)を読む。 2014年に発表した「生か、死か」に続き、19年に発表した本作で20年に2度目の英国推理作家協会最優秀長編賞(ゴールド・ダガー)を受賞。同年のアメリカ探偵作家クラ…

晴歩雨読 ラスト・トライアル

このところ朝は雨続きで散歩もままならず。なのできのう読了した本の紹介。 ロバート・ベイリー「ラスト・トライアル」( 吉野弘人訳、小学館文庫)。 アラバマ大学法学部の教授だったトムと教え子リックの弁護士コンビ、黒人弁護士ボーや検事パウエルらが活躍…

虫たちの日本中世史 『梁塵秘抄』からの風景

植木朝子「虫たちの日本中世史 『梁塵秘抄』からの風景」(ミネルヴァ書房)を読む。 平安時代末期に編まれた歌謡集「梁塵秘抄(りょうじんひしょう)」を手がかりに、中世の人々と虫の関わりを紹介しながら虫の世界からのぞいた中世の風景を描いている。 毎…

歴史ミステリー マハラジャの葬列

アビール・ムカジー「マハラジャの葬列」(訳・田村義進、ハヤカワ・ポケミス)を読む。 原題は「A NECESSARY EVIL」 イギリス人でインド帝国警察の警部サム・ウィンダムと、ウィンダムの部下でインド人の部長刑事サレンダーノット(サレンドラナート)・バ…

敗れざる者 柳広司「アンブレイカブル」

柳広司「アンブレイカブル」(角川書店)を読む。 作者は「ジョーカー・ゲーム」などで知られるミステリー作家。ミステリー好きとしては新刊が出たというので手にとるが、ミステリーというよりサスペンスタッチの社会的メッセージを込めた小説で、なかなか読…

ナイジェリア発のミステリー「マイ・シスター、シリアルキラー」

オインカン・ブレイスウェイト「マイ・シスター、シリアルキラー」(栗飯原文子訳、ハヤカワ・ポケミス)を読む。 ナイジェリアのミステリー。 2019年のロサンゼルス・タイムズ賞(ミステリ部門)、アンソニー賞最優秀新人賞、アマゾン・パブリッシング・リ…

「ネヴァー・ゲーム」「素晴らしき世界」

2冊続けて海外ミステリーを読む。 1冊目はジェフリー・ディヴァー「ネヴァー・ゲーム」(訳・池田真紀子、文藝春秋)。 リンカーン・ライム、キャサリン・ダンスのシリーズに続く新シリーズの第1作。主人公は姿を消した人間を追跡する名人、コルター・ショウ…

「果てしなき輝きの果てに」「その手を離すのは、私」

女性作家によるミステリーを、2冊続けて読んだ。 1冊目はリズ・ムーアの「果てしなき輝きの果てに」(訳・竹内要江、ハヤカワ・ポケミス)。 舞台はアメリカ・フィラデルフィア郊外の街ケンジントン。薬物蔓延と連続殺人事件に揺れる街で、失踪した娼婦の妹…

柳美里「JR上野駅公園口」意外なテーマ

柳美里「JR上野駅公園口」(河出書房新社)。 2014年に出版された小説だが、今年11月、米国で最も権威のある文学賞の1つとされる全米図書賞の翻訳文学部門に選ばれたというので読む。 読んでみたらこの本は意外なことに、天皇制と私たちについて考える本で…

圧倒的な自然と命の描写 ザリガニが鳴くところ

ディーリア・オーエンズ「ザリガニの鳴くところ」(訳・友廣純、早川書房)を読む。 作者はジョージア州出身の動物学者、小説家。ジョージア大学で動物学の学士号を、カリフォルニア大学ディヴィス校で動物行動学の博士号を取得し、動物にまつわるノンフィク…