善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

晴歩雨読 ラスト・トライアル

このところ朝は雨続きで散歩もままならず。なのできのう読了した本の紹介。

ロバート・ベイリー「ラスト・トライアル」( 吉野弘人訳、小学館文庫)。

 

アラバマ大学法学部の教授だったトムと教え子リックの弁護士コンビ、黒人弁護士ボーや検事パウエルらが活躍するリーガル・シリーズの3作目。

トムは70歳で、末期のがんを患っている。事務所に1人の少女が現れ、殺人事件の容疑者として逮捕された母親の弁護をトムに依頼するところから物語は始まるが、小説の冒頭あたりのトムの孫と法律事務所を訪れた少女の対比が鮮明だ。

トムの孫の12歳の少年は、両親や祖父のトムの温かいまなざしに守られて何のくったくもなく成長していて、少年野球の選手として張り切っている。一方、トムの事務所を訪れた14歳の少女の母親は元ストリッパーで薬物依存で売春もしていて貧しい暮らしを強いられながら、「マンマの弁護士になって」とトムに訴える。

妹もいるという少女の言葉がトムの心に響く。

「わたしは12歳のときから自分で生きてきたのよ。そうするしかなかった。わたしたちがマンマから引き離されたとき、足で深さを測るなんてできなかった。わたしとジャッキー(妹)は、いきなり深みに放り投げられて、泳ぐか溺れるしかなかった。・・・ジャッキーに学校に行く前に夕食のお金をもたせるのもわたしなら、彼女の宿題を手伝うのもわたし。(サッカーの)練習のあとに、車で帰らなければならないときも、自分でどうにかしなきゃならない。どうにもならないときは、走って帰るしかなかった」

残り少ない自分の命と、これから先の長い人生を必死に生きている若い命。

トムは母親のためというより、少女の力になりたいと弁護を引き受けるのだった。

 

ロバート・ベイリーのトムを主人公にしたリーガル・シリーズは全4部作で、今回は第3弾。

証拠論の権威としてアラバマ大学で教えていたトム・マクマートリィ教授(通称:教授)が、陰謀により大学を追われ、弁護士として現役復帰。会社ぐるみの隠ぺいがあるトラック事故の裁判に立ち向かう「ザ・プロフェッサー」が第1弾。続いて、かつての教え子ボーセフィス・ヘインズ(通称:ボー)がKKKの元メンバーを殺した容疑をかけられ、教授が弁護を引き受けるのが「黒と白のはざま」。そして今回の「ラスト・トライアル」。

第1作から読んでいると、一応それぞれ独立した話にはなっているが、物語としてはつながっているのがわかる。

タイトルからして「最後の法廷」かと思ったら、次作でもがんばるみたいで、第4弾はすでに「The Final Reckoning」としてアメリカで刊行済み。邦訳が楽しみだ。