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青山文平「父がしたこと」(角川書店)を読む。 2023年12月に刊行された長編の時代小説。 江戸時代末期の天保年間。ある藩の目付をつとめる永井重彰(年はまだ20歳をすぎたばかり)は、藩主の身辺を取り仕切る小納戸頭取である父の元重から、藩主が長年患っ…
中島京子「うらはぐさ風土記」(集英社)を読む。 肩の力を抜いたエッセーふうの読みやすい小説。最後のほうはドラマチックになって、ストンと胸に落ちるものがあった。 アメリカ・カリフォルニア州の私立大学で日本語を教えていた52歳の沙希(さき)は、8歳…
日本の植物分類学の先駆者、牧野富太郎をモデルに、現在放送中のNHKの連続テレビ小説「らんまん」。 戦後を代表する時代小説・歴史小説作家である池波正太郎が、富太郎の半生を劇化した芝居の脚本を書き、短編小説にもしているというのを知り、興味を持った…
マイクル・コナリー「正義の弧」(講談社文庫・上下巻、訳・古沢嘉通)を読む。 原題「DESERT STAR」 長年のファンであるマイクル・コナリーが著した37冊目のミステリー長編。ロサンゼルス市警未解決事件班担当刑事レネイ・バラード&退職した刑事でとっくに…
トム・リン「ミン・スーが犯した幾千もの罪」(鈴木美朋・訳、集英社文庫) 原題「 The Thousand Crimes of Ming Tsu」 中国系アメリカ人のガンマンが主役の異色の西部劇小説。 大陸横断鉄道完成間近のアメリカ西部。妻エイダを奪われ、不当な罪を着せられた…
ジェイムズ・ケストレル「真珠湾の冬」(訳・山中朝晶、ハヤカワポケミス、原題「FIVE DECEMBERS」) ハードボイルド&ミステリー小説として読み始めるが、警察小説として始まった物語はやがて太平洋戦争下を生き抜く男の魂の彷徨を描いていく。原題の「FIVE…
北欧アイスランド発のミステリー、アーナルデュル・インドリダソン「印 サイン」(訳・柳沢由実子、東京創元社)。 レイキャヴィク警察の犯罪捜査官エーレンデュルを主人公とするシリーズの第6作目。 3作目にあたる「湿地」と次の「緑衣の女」で2年連続して…
シヴォーン・ダウド「ロンドン・アイの謎」(越前敏弥訳、東京創元社)を読む。 ヤングアダルト(YA)向けの小説のようで、アイルランドのすぐれた児童書、YA作品に与えられる賞であるビスト最優秀児童図書賞を受賞しているが、明るくユーモラスな語り口が魅…
リサ・ガードナー「噤(つぐ)みの家」(訳・満園真木、小学館文庫)を読む。 原題「NEVER TELL」 3つの関係のないと思われた事件がやがて1つにつながっていく。 これだからミステリーはおもしろい。 ボストンの住宅街。高校の数学教師のイヴリンが家に帰る…
マイケル・Z・リューイン「祖父の祈り」(田口俊樹訳、ハヤカワ・ポケット・ミステリ) 「アルバート・サムスン」シリーズや「パウダー警部補」シリーズのマイケル・Z・リューインの最新作。 1942年生まれだから今年80歳になるはずだが、健在を示す一作。 未…
青山文平「跳ぶ男」(文春文庫)を読む。 江戸時代を舞台とした時代小説だ。 時は江戸後期、表高も実高も2万2千石しかない貧しき小藩・藤戸藩。領地の大半が高い台地にあるというギアナ高地みたいな国であるため、川が流れてもみんな隣国に行ってしまい、作…
アビール・ムカジー「阿片窟の死」(田村義進訳、ハヤカワポケットミステリーブック)を読む。 「カルカッタの殺人」「マハラジャの葬列」に続くインド帝国警察ウィンダム警部&バネルジー部長刑事の活躍を描く歴史ミステリーの第3弾。 著者は1974年生まれの…
ピーター・トレメイン「修道女フィデルマの采配」(田村美佐子訳、創元推理文庫)を読む。 7世紀のアイルランド・モアン王国(現在のマンスター地方)を舞台に、修道女で王の妹、弁護士・裁判官の資格も持つ美貌の女性フィデルマが探偵役をつとめるシリーズ…
紀蔚然「台北プライベートアイ」(船山むつみ訳、文藝春秋)を読む。 台湾発のミステリーというので手にとる。 作家で大学教授でもある呉誠(ウ―・チェン)は若いころからパニック障害と鬱に悩まされてきた。ある日、日ごろの鬱憤が爆発して酒席で出席者全員…
ディーパ・アーナパーラ「ブート・バザールの少年探偵」(坂本あおい訳、ハヤカワ・ミステリ文庫)を読む。 原題は「Djinn Patrol on the Purple Line」。 少年の目を通して描いたインド社会の闇。インドのスラム街の匂いや気配が伝わってくる小説。 先日は…
マイケル・ロボサム「天使と嘘」(越前敏弥訳、上下巻、ハヤカワ・ミステリ文庫)を読む。 2014年に発表した「生か、死か」に続き、19年に発表した本作で20年に2度目の英国推理作家協会最優秀長編賞(ゴールド・ダガー)を受賞。同年のアメリカ探偵作家クラ…
このところ朝は雨続きで散歩もままならず。なのできのう読了した本の紹介。 ロバート・ベイリー「ラスト・トライアル」( 吉野弘人訳、小学館文庫)。 アラバマ大学法学部の教授だったトムと教え子リックの弁護士コンビ、黒人弁護士ボーや検事パウエルらが活躍…
アビール・ムカジー「マハラジャの葬列」(訳・田村義進、ハヤカワ・ポケミス)を読む。 原題は「A NECESSARY EVIL」 イギリス人でインド帝国警察の警部サム・ウィンダムと、ウィンダムの部下でインド人の部長刑事サレンダーノット(サレンドラナート)・バ…
戸田義長「雪旅籠」(創元推理文庫)を読む。 江戸末期から明治へと移り変わる時代を舞台にした話に、現代風のミステリーの手法をほどこしての謎解き小説。 主人公は、若き日より“八丁堀の鷹”と謳われてきた北町奉行所定町廻り同心の戸田惣左衛門と、その跡…
柳広司「アンブレイカブル」(角川書店)を読む。 作者は「ジョーカー・ゲーム」などで知られるミステリー作家。ミステリー好きとしては新刊が出たというので手にとるが、ミステリーというよりサスペンスタッチの社会的メッセージを込めた小説で、なかなか読…
オインカン・ブレイスウェイト「マイ・シスター、シリアルキラー」(栗飯原文子訳、ハヤカワ・ポケミス)を読む。 ナイジェリアのミステリー。 2019年のロサンゼルス・タイムズ賞(ミステリ部門)、アンソニー賞最優秀新人賞、アマゾン・パブリッシング・リ…
谷津矢車「絵ことば又兵衛」(文藝春秋)を読む。 「浮世絵の祖」とか「奇想の絵師」とも呼ばれる江戸時代初期の絵師、岩佐又兵衛の幼少期から成熟期に至る姿を描いた長編小説。 岩佐又兵衛は実在の人物で、1578年(天正6年)の生まれ、1650年(慶安3年)没…
柳美里「JR上野駅公園口」(河出書房新社)。 2014年に出版された小説だが、今年11月、米国で最も権威のある文学賞の1つとされる全米図書賞の翻訳文学部門に選ばれたというので読む。 読んでみたらこの本は意外なことに、天皇制と私たちについて考える本で…
ディーリア・オーエンズ「ザリガニの鳴くところ」(訳・友廣純、早川書房)を読む。 作者はジョージア州出身の動物学者、小説家。ジョージア大学で動物学の学士号を、カリフォルニア大学ディヴィス校で動物行動学の博士号を取得し、動物にまつわるノンフィク…
ヨルン・リーエル・ホルスト「警部ヴィスティング カタリーナ・コード」(中谷友紀子訳、小学館文庫)を読む。 ノルウェーのミステリー。著者自身が警察官出身で、シリーズものの一冊らしい。 ノルウェー南部の小都市、ラルヴィク警察犯罪捜査部の警部ヴィリ…
第2次世界大戦時に日本軍を鼓舞したという「ファナティシズム(熱狂)」と呼ばれる伝説のトランペットを偶然、手に入れたジャーナリストの山峰は、謎の組織から追われることになる。 話はドイツや日本を舞台にしたサスペンスタッチの逃亡劇に始まり、潜伏キリ…
ユッシ・エーズラ・オールスン「特捜部Q アサドの祈り」(吉田奈保子訳、ハヤカワ・ポケット・ミステリー)を読む。 デンマークの警察を舞台にした特捜部Qシリーズ第8弾。 フィクションの世界を描いているが、そのときどきの社会問題に光をあてるジャーナリ…
ダン・フェスパーマン「隠れ家の女 」(訳・東野さやか、集英社文庫) 原題の「SAFE HOUSES」とは、直訳すれば「安全な家」だが、スパイなどが使う「隠れ家」を意味するんだとか。 まさしくスパイ小説とナゾ解きミステリを掛け合わせたような小説。文庫本660…
フレッド・ヴァルガス「ネプチューンの影」(田中千春訳、東京創元社) フレッド・ヴァルガスは1957年パリ生まれ。シュールレアリスムの研究者を父に持つ二卵性双生児の姉妹の妹だという。パリ十三区警察署長アダムスベルグ・シリーズの1冊で、CWA賞受賞作と…
マイクル・コナリー「レイトショー」(吉沢嘉通訳、講談社文庫)を読む。 マイクル・コナリーの30冊目の長編小説。 これまでリンカーン弁護士のミッキー・ハラーや、ロス市警の刑事ハリー・ボッシュ(たしか60代後半で引退年齢のはずだが)のシリーズを続け…