ユッシ・エーズラ・オールスン「特捜部Q アサドの祈り」(吉田奈保子訳、ハヤカワ・ポケット・ミステリー)を読む。
デンマークの警察を舞台にした特捜部Qシリーズ第8弾。
フィクションの世界を描いているが、そのときどきの社会問題に光をあてるジャーナリスティックな視点もあり、今はもう作者の死去で終わってしまった「フロスト警部」に通じる人間模様がおもしろくて毎回楽しみにしているシリーズ。
原題は「OFFER2117」
11年前から特捜部Qの一員となってきた中東出身のアサドのナゾが明らかになる。
キプロスの浜辺に、難民とおぼしき老女の遺体が打ち上げられた。新聞で「犠牲者2117」として紹介された彼女の写真を見たアサドはうちのめされ、慟哭する。老女は、16年前、テロリストたちに連れ去られ監禁されたままの妻や子どもとつながりを持つ人物で、老女が写ったその写真には何と、16年前から音信不通の妻や子の姿も写っていたからだ。
アサドはついに自らの壮絶な過去を特捜部Qのメンバーに打ち明け、失踪したままの妻子を探し始めるが、やがてドイツの首都ベルリンでの大量殺害のテロ事件の陰謀へと話は発展していく。一方、Qにはゲームオタクで引きこもりの若い男から殺人予告の電話がかかってくる。
この2つの話が交差し、最後は壮絶な展開となっていく。
ゲームオタクで引きこもりの若い男はものすごい日本びいきらしく、日本刀を持っていたり自分の名前を三船敏郎をもじって「トシロー」と名乗ったり、太った女性をスモウトリといったりする。作者をはじめとしてデンマークでは日本文化がけっこう人気なのか?
それはともかく、いつものジョーク満載の丁々発止が控えめなのは少し残念だが、後半は手に汗を握る展開。
ただし、11年間も特捜部Qで活躍してきたアサドが、実は妻や3人の子どもがいて16年も前から凶悪な男たちに捕まって監禁されたまま今に至るというのはちょっと不可解。16年間はいくらなんでも長すぎる気がするが。