善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

特捜部Q 吊された少女

ユッシ・エーズラ・オールスン『特捜部Q 吊された少女』(吉田奈保子訳、ハヤカワポケットミステリーブック)

特捜部Qシリーズの第6弾。デンマークコペンハーゲン警察に設置された特捜部Qの責任者で警部補のカール・マークと助手のアサド、ローセのやりとりが相変わらずおもしろい。

今回起こった事件の捜査でカールは「星の神話からキリスト教まで」という講座で語った退官した大学教授のところに行くが、そこでの太陽と宗教の関連性についての話が興味深かった。
それはこんなやりとりだ。

教授は語る。
「太古の昔から人類は天空にインスピレーションを得て物語をつくりだし、多くの宗教がその物語を礎(いしずえ)としている」

教授によれば、人々は先史以来、黄道帯を移動する太陽を創造主や神、世の光、人類の救世主のシンボルとしてきたという。数えきれないほどの宗教が、それぞれの教義に従って、太陽を太陽神に、星座を神話的な人物に置き換えている。
そこで教授は、この解釈がどの時代においてもどの宗教においても広く当てはまるかどうかの実証を試みた。

「紀元前三千年前のエジプトでは、ホルスとセトが光と闇の神として信仰されていました。ホルスは善の光の神とされ、朝が来るたびにセトとの戦いに勝利したのです。セトは簡単に言えば悪の神で、闇の象徴です」
「ホルスは、十二月二十五日に処女から生まれました。その誕生は東方に輝く星が予言し、ホルスは三人の王から敬愛をうけました。十二歳で教師となり、三十歳で洗礼をうけ、十二人の弟子を得ています。その弟子たちは『使徒』と呼ばれ、ホルスは彼らとともに旅をし、奇跡を行いました。タイホォンに裏切られ、十字架に磔にされ、三日後に復活しています」

生誕日、三人の王、導きの星使徒、奇跡、裏切り、十字架、磔刑、死と復活。キリストの生涯と瓜二つだ。
キリストばかりではない、「ギリシャ・ローマ世界の神アッティス、紀元前千二百年の古代ペルシャの神ミスラ、紀元前九百年のインドに現れたクリシュナ、さらに紀元前五百年、ギリシャ神話のディオニュソスにも類似点が診られます。世界のほかの地域で信仰されている宗教でもそうです。ヒンドスタン、バミューダ諸島チベット、ホパール、タイ、日本、メキシコ、中国、イタリア。どれも多少のアレンジはありますが、話は同じです」

イエス・キリストは頭部の背後に光輪と十字をともなって描かれている。つまり、円と十字だ。黄道帯の太陽十字と瓜二つだという。

地球は1年をかけて太陽をまわるが、これより短い自転というサイクルがある。すなわち日の出、天頂、日の入り、天頂の正反対にある天底、天文学的見地からこれらは冬と夏の至点、さらに春と秋の昼夜平分時と一致している。頂点と低点、日の出と日没──天文学的にいえば冬至点と夏至点、春分点秋分点──を結ぶと、太陽が描く円起動の上に十字が形成される。これが世界中で太陽十字と呼ばれているものだ。

多くの宗教が天体とその動きをよりどころにしている理由は「地球上のあらゆる命がこうした星の配置の結果として生まれたものだからでしょう。万物、あるいは一人ひとりが信仰する神の存在ですら、天体とその動きを通じて解釈することが可能なのです」

太陽信仰の延長線上にあるのが古代エジプトの信仰であり、キリスト教であり、日本の神道だが、仏教もそうなのかもしれない。