善福寺公園めぐり

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チェロ界をリードする6人による「奇跡のチェロ・アンサンブル」

正月4日、日本を代表する若手チェロ奏者6人による「奇跡のチェロ・アンサンブル」を横浜みなとみらいホールで聴く。

演奏は辻本玲、伊藤悠貴、小林幸太郎伊東裕、岡本侑也、上野通明。

ソリストやオーケストラ奏者として、日本で、世界で活躍中のチェリストたちだ。

曲目は、最初に小林幸太郎「チェロの為のハーモニックファンファーレ」、続いてピアソラアルゼンチン出身バンドネオン奏者で作曲家)の曲で「悪魔のロマンス」「天使の死」「オブリビオン」「鮫」。

さらにサン=サーンス「序奏とロンド・カプリチオーソ」

休憩を挟んで、オーケストラ曲をチェロ用に編曲した3曲。

ワーグナーニュルンベルクのマイスタージンガー 第1幕への前奏曲リムスキー=コルサコフ「シェヘラザード」より「若き王子と若き王女」ガーシュウィンラプソディ・イン・ブルー」。

以上、編曲はすべて演奏者の一人でもある小林幸太郎

どの曲もよかったが、特にサン=サーンス「序奏とロンド・カプリチオーソ」と、最後の曲ガーシュウィンラプソディ・イン・ブルー」。

ラプソディ・イン・ブルー」では、チェロのアンサンブルなのにヴァイオリンの響きあり、クラリネットの美しい音色あり、心地よいリズムを刻むベースあり。ジャズふうのところなんか一緒に体を動かしてスウィングしたくなっちゃった。

6人は一人一人がソロの演奏家であるから、その人ならではの演奏スタイルで、自分の“音”を持っているから、独奏のところでは違った味わいを楽しめる。さらに低音から高音まで、重層なアンサンブルが見事で、チェロってこんなに多彩な音を響かせることができるのかと、新しい音の世界を発見した夜でもあった。

 

オーケストラが奏でる曲をチェロ・アンサンブルで聴かせるには、編曲した小林幸太郎の功績も大きい。

コンサートでのトーク・タイムのときにも本人が話していたが、彼が編曲を始めたきっかけが「ラプソディ・イン・ブルー」だったという。学生時代の夏合宿のとき、合宿では各自が何か出し物をするのが定番なので、小林がどうしてもチェロで演奏してみたかったのが「ラプソディインブルー」。市販の楽譜は存在せず「ないならつくってしまおう!」と編曲したところ、その魅力にとりつかれたのだとか。

たっぷり2時間のコンサートで、拍手は鳴りやまず、アンコール曲は「ルパン三世のテーマ」。

 

それにしても、一堂に集まって演奏した6人のチェリストたちは、一人一人が多忙を極める演奏家たち。外国に住んでいて国際的に活躍している人もいるし、N響都響の首席チェロ奏者もいてオーケストラの一員として忙しい人もいる。そんな人たちか一堂に会するのはタイトルにあるとおり“奇跡”近いことかもしれない。

たまたま去年の「石田泰尚スペシャル・熱狂の夜」コンサートの会場で「奇跡のチェロ・アンサンブル」のチラシを目にし、ファンである伊藤悠貴と上野通明の名前が出ていて、ほかにも第一線で活躍するチェリストたちが共演するというので、「これは奇跡だ!」とチケットを買ったが、実はこのコンサートは今から9年も前から始まっているのだという。

もともとは、伊藤悠貴の声かけがきっかけで、2016年12月27日に東京文化会館にて最初のコンサートを開いたのが始まりなんだとか。

伊藤悠貴のチェロを最初に聴いたのは2013年の6月、彼がまだ24歳ぐらいのころだが、それから年月が経って、チェロの仲間を集めてこうしたコンサートを開くまでに成長したのだろう。1989年生まれだから今年36歳になるはずだ。

6人のチェリストたちの中で一番若いのが上野通明で、彼の演奏を最初に聴いたのは2016年12月のことで、フォーレの「エレジー」を聴いたが、このとき彼はまだ20歳ぐらいだった。

その上野は、2021年ジュネーヴ国際音楽コンクール・チェロ部門日本人初の優勝、併せて三つの特別賞受賞。若い音楽家のためのチャイコフスキー国際音楽コンクールルーマニア国際音楽コンクール、ブラームス国際コンクール優勝など国際舞台で大活躍するまでになっている。

若い音楽家たちが成長していく姿を見て、うれしくなった夜でもあった。