善福寺公園めぐり

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歌い、踊りたくなる「石田組」コンサート

ヴァイオリニスト石田泰尚率いる弦楽合奏団「石田組」のアルバム発売記念ツアーが5月3日の兵庫公演からスタートしていて、きのうの日曜日午後2時からのサントリーホール大ホールでの公演を聴く。

石田を入れてヴァイオリン6人、ヴィオラ3人、チェロ3人、コントラバスチェンバロ各1人の合計14人編成。

客席は満席。しかも7割近くは女性客。この日は、昼の公演が人気だったため夜6時から追加の公演が決まっていて、こちらも満席の予定。さらに勢いは止まらなくて17日も再び追加公演が決まったという。

「石田組」は石田の呼びかけで2014年結成。

彼は神奈川フィルハーモニー管弦楽団の首席ソロ・コンサートマスターをしていて、何年か前、同楽団のコンサートで一人異彩を放つ演奏をする姿を見て以来、ファンになった。

いかつい風貌に鋭い眼光、剃り込みを入れた短髪(かつては坊主頭だった)にサングラス姿で、一見するとヤクザにしか見えない。それで“組長”というニックネームで呼ばれていて、彼が企画・結成した弦楽アンサンブルの名前も「石田組」となった。 

 

石田組は、石田が信頼を置く第一線で活躍するオーケストラメンバーを中心に“組員”が構成されている。今まで「石田組」で演奏したメンバーは50名を超え、プログラムに合わせて毎回少しずつメンバー構成が変わるという。

演奏される楽曲はクラシックにとどまらないのが特徴で、今回のプログラムも、第一部はヴィヴァルディの「四季」でクラシックの王道。休憩後の第二部は、グリーグの「二つの悲しき旋律」に続いて、ミュージカルやロックのオンパレードとなった。
C.M.シェーンベルク(松岡あさひ編曲)「レ・ミゼラブル」メドレーのあと、ヴァン・ヘイレン(松岡あさひ編曲)「ドリームス」は一緒に踊りたくなるような演奏。続くクイーン(松岡あさひ編曲)「ボヘミアン・ラプソディー」は一緒に歌いたい気分になる。最後のキング・クリムゾン(近藤和明編曲)「21世紀のスキッツォイド・マン」は、ロックの名曲が弦楽アンサンブルによるヘビーな響きとなり、聴いてるほうもノリノリとなった。

ロックの曲を弦楽曲にアレンジした編曲者の松岡あさひは東京芸大の演奏芸術センター特任准教授だそうで、クラシックの新しい風を感じた。

今まで「石田組」はその硬派のイメージからか“組員”は男性だけだったが、今回初めて女性“組員”として東京フィル首席ビオラ奏者の須田祥子が加わった。組長・石田に負けず、途中から派手な衣装に変わり、踊るような、歌うような演奏で“姐御”登場という感じだった。

 

それにしても、ヤクザっぽい風貌に似合わず?繊細で美しい音を響かせる石田“組長”。なぜ派手なファッションと派手な動きで観客を沸かすのかというと、それには理由があるようだ。

 (写真は2022年のコンサート・レポートより)

彼は子どものころから目立ちたがり屋で、人前で何かをやるのが好きな子どもだったという。子どものころヴァイオリン教室に通っていたときも、ほかの子が演奏しているのを見て、「なぜあんなにつまらなそうに演奏してるんだろう。もっと楽しく弾けばいいのに」と思い、そのころから“他人とは違う自分の個性”を意識していたという。

1995年に国立音楽大学を首席で卒業し、翌年には22歳の若さで新星日本交響楽団コンサートマスターに就任。その当時のインタビューで次のように語っている。

「僕は目立ちたがり屋だから、自分の演奏を聞いてくれる人が一番大切。一人で練習しているときも、どうすればお客さんに楽しんでもらえるかをいつも考えています」

観客を楽しませたいし、自分も楽しみたい。その思いは30年近くたった今も変わらず、いやむしろもっと強くなっていて、それで彼はあえてヤクザっぽい風貌でわれわれを驚かせて楽しんでいるのかもしれない。