善福寺公園めぐり

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日本人の心揺さぶる 石田泰尚スペシャル熱狂の夜:カルテット

JR川崎駅前にあるミューザ川崎シンフォニーホールで「石田泰尚スペシャル 熱狂の夜 第二章 第4夜:カルテット」を聴く。

6月の「第一夜:無伴奏」に始まる「石田泰尚スペシャル熱狂の夜」コンサートの第4夜目で、7月はデュオ、8月のトリオに続いて、9月のきのうはカルテット。このあと10月アンサンブル(石田組)、11月コンチェルト(神奈川フィル)で完結。

第1夜から毎回、全席完売の盛況で、石田の人気のほどがうかがえる。

きのうも満席で、圧倒的に女性が多い。

見た目は強面でアブナイ雰囲気の石田が、型破りのプレイスタイルでヴァイオリンを奏でると、見た目とは裏腹に何とも美しく繊細な響きと技巧の見事さ。見た目と内実のそのギャップが、かえって女性の心をわしづかみにするのかも。かくいう男だってファンになっている。

 

第4夜のカルテットは今年で30周年を迎える弦楽四重奏団「YAMATO String Quartet」(YAMATO S.Q.)による演奏で、メンバーは第一ヴァイオリン石田のほか、第二ヴァイオリン執行(しぎょう)恒宏、ヴィオラ榎戸崇浩、チェロ阪田宏彰。

演奏曲目は、プッチーニ没後100年というのでプッチーニ弦楽四重奏『菊』」、グリーグ弦楽四重奏曲 ト短調」、休憩を挟んで、キング・クリムゾンクリムゾン・キングの宮殿」全曲、ピアソラ「忘却」「リベルタンゴ」。

アンコール曲はボック「サンライズ・サンセット『屋根の上のヴァイオリン弾き』より」、ビートルズ・メドレー、ディープ・パープル(松岡あさひ編曲)「Smoke on the water」(編曲初演)。

 

30年前に結成されたYAMATO S.Q.は、今日のカリスマ的人気の石田を育んだ原点となる音楽集団といえるかもしれない。

YAMATO S.Q.が結成されたとき、石田は今のような“組長”っぽいスタイルではなく、サラサラヘアで国立音大の学生だったという。チェロの阪田は国立音大を卒業したばかりで、石田と同い年のヴァイオリンの執行は芸大、ヴィオラの榎戸は東京音大の学生だった。

大学は異なるが知り合った4人は意気投合し、結成したのが弦楽四重奏団。結成当初は先輩たちから「弦楽四重奏ではとても食っていけない」という助言も受けたそうで、それに対する反骨心がその後の活動の原動力ともなったのだとか。

「日本人らしい演奏があってもいいのではないか」という思いを込めてつけたグループ名が「YAMATO」。途中から作編曲家の近藤和明氏とタッグを組み、彼のアレンジでピアソラの作品や映画音楽、ハードロック、プログレッシヴロックなどを幅広い曲を取り上げて演奏活動を行っている。

 

きのう聴いた「クリムゾン・キングの宮殿」は1969年に発表されたイングランド出身のロックバンド、キング・クリムゾンのファースト・アルバムの曲。プログレッシブ・ロックの代表的作品で、その後のロックに多大な影響を与えたといわれる。

聴いていて思ったのは、今まで聴いたロックとはだいぶ趣か違うということ。ジャズやクラシックの要素も取り入れられている感じで、だからこそ弦楽四重奏との“相性”もぴったりなのか。

途中、第4曲目の「ムーンチャイルド」の旋律は、日本の演歌を彷彿させ、一緒に歌い出したくなってしまった。それくらい日本人の心をそそるような曲で、どこかで聴いたことあるなーと思わせる、どこか懐かしい旋律だった。

気になって、帰ってからあらためて原曲を聴き直したら、何と、坂本冬美が歌う「また君に恋してる」とそっくりではないか。

また君に恋してる」はもともと、ビリー・バンバンが2007年に発表した曲で、同年に大分麦焼酎いいちこ」のCM曲としてオンエアされたもの。それを坂本冬美がカバーし、翌08年に同じ「いいちこ」のCMで流されて人気に火がつき、彼女は09年、10年の紅白歌合戦で2年続けてこの曲を歌っている。

ビリー・バンバンが最初にこの曲を発表した直後から、「クリムゾン・キングの宮殿」の「ムーンチャイルド」にそっくりだというので物議をかもしたらしい。

まさかパクリなんかではないと思うが、たまたま「また君に恋してる」の作曲者が「ムーンチャイルド」を聴いていて、深層心理の中に曲のイメージが残っていて、作曲したら似た曲になったのだろうか。

しかし、そんなことよりもスゴイのは、あのメロディーを思い浮かべた「クリムゾン・キングの宮殿」の作曲者だ。よくもあのような日本人の心を揺さぶるような曲をつくってくれたと思うが、ひょっとしてキング・クリムゾンの心と日本人の心は、音楽的に共通し合う何かでつながっているのだろうか?

それとも、あの曲を、日本人の心を伝えようとする「YAMATO S.Q.」が演奏したからこそ、より深く共通するものを感じたのだろうか?