善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

クセになりそうな「石田泰尚スペシャル 熱狂の夜」

JR川崎駅そばのミューザ川崎シンフォニーホールで「石田泰尚スペシャル 熱狂の夜 第3夜《カルテット》アメリカ」を聴く。

石田泰尚はヴァイオリン奏者。神奈川フィルハーモニー交響楽団のソロ・コンサートマスターで、その風貌からしてヤクザの親分みたいなので「組長」ともあだ名され、この日も坊主頭というかモヒカンっぽい頭にサングラス、だぼだぼズボンの着崩した学ランのような不良スタイルで、ヴァイオリンを携えての登場シーン、退場シーンも悪ガキふうというか、不良歩きふう。

演奏スタイルも独特で、大股開きで体を揺すりながらのまさしく“熱狂”の演奏。

実は以前に神奈川フィルのコンサートを聴いて、そのときの石田の演奏ぶりがやけに印象に残り、「熱狂の夜コンサート」ってどんなだろうと川崎くんだりまで駆けつけた。

 

この日の演奏メンバーは、異なる音楽大学の学生同士で知り合ったという石田ら4人により1994年に結成された弦楽四重奏団「YAMATO String Quartet」。

第1ヴァイオリン石田泰尚、第2ヴァイオリン執行恒宏、ヴィオラ榎戸崇浩、チェロ阪田宏彰(チェロ)で、長年苦楽を共にしているためか息もピッタリ。

たった4人のコンサートでもミューザ川崎の大ホールはほぼ満席。人気のほどがうかがわれる。

 

石田の経歴がおもしろい。国立音楽大学を首席で卒業し、今は懐かし新星日本交響楽団に22歳でアシスタントコンサートマスターとして入団。24歳でコンサートマスターに就任。ところが、新星日響が2001年に東京フィルハーモニー交響楽団と合併することになり、その名前が消滅すると聞いて、新星日響の名前がなくなるなんて冗談じゃない、というので即退団しちゃったという。

なんという男気。

 

もちろん、見た目は“硬派”でも演奏は繊細で美しい。

きのうは7月4日のアメリカ独立記念日にちなんでか、「アメリカ」という副題がついているが、アメリカ出身の作曲家の名前はなく、唯一アメリカっぽいのがドヴォルザーク弦楽四重奏曲アメリカ」。これとてアメリカへの憧れをチェコ出身のドヴォルザークが曲にしたもので、ほかにアストル・ピアソラの「アディオス・ノニーナ」と「革命家」、伊福部昭の「ゴジラ」、スメタナ弦楽四重奏曲「わが生涯より」。

ゴジラ」は映画「ゴジラ」のテーマ曲であり、ゴジラアメリカの水爆実験によりあらわれた怪獣であり、ピアソラの「革命家」はキューバ革命の指導者チェ・ゲバラを指すともいわれていて、ゲバラアメリカ支配からの解放のために戦った人物だから、関係がなくはないが。

ピアソラはタンゴとクラシックやジャズを融合して独自の音楽をつくり出したアルゼンチンの作曲家で、7月4日は没後30年の命日にあたるという。

 

きのうの演奏で、中でも印象に残ったのが伊福部昭の「ゴジラ」だった。演奏もよかったが、曲がすばらしい。

当日配られたパンフレットによると、伊福部は被ばく者であり、おかげで体が動かなくなって作曲家として本格的に活動することになったという。

彼は戦時中は木製飛行機製造のための強化木材の開発に従事していて、その研究に放射線を用いていたため被曝し、1年間、寝たきりになるほどだったという。

原水爆による「被爆」と放射線による「被曝」とではかなり違うかもしれないが、同じ「被ばく者」であることに変わりはない。

 

彼は戦時中から作曲を始めていて、34歳のときの1948年1月に発表したのが「ヴァイオリンと管弦楽のための協奏曲」(のちに「ヴァイオリンと管弦楽のための協奏風狂詩曲」と改題)で、この中に映画「ゴジラ」の原曲が含まれている。きのう演奏された「ゴジラ」もこの曲をリライトしたものという(編曲・近藤和明)。

伊福部はこの曲の中の、のちに「ゴジラのテーマ」となる旋律がよほど気に入ったのだろう、1948年の同じ年に公開された松竹映画「社長と女店員」(柳家金語楼月丘夢路出演)という喜劇映画の音楽にこの旋律を使っていて、1950年の「蜘蛛の街」というサスペンス映画にも流用しているという。

だからホントは「ゴジラのテーマ」というより「伊福部のテーマ」といったほうがいいのかもしれないが、とにかく名曲だった。

 

アンコール曲はジミ・ヘンドリクス「リトルウイング」、バーンスタイン「ウエストサイドストーリー」よりの抜粋。ここでようやく「アメリカ」登場。
そして最後は「ソーラン節」。

 

ナマで見て聴くからこその「酔いしれ」感。

何だかクセになりそうな「熱狂の夜」だった。