JR川崎駅前のミューザ川崎シンフォニーホールで「石田泰尚スペシャル『熱狂の夜』シリーズ第5夜《コンチェルト》グラス&マルサリス」を聴く。
ヴァイオリン・石田泰尚、演奏・神奈川フィルハーモニー管弦楽団、指揮は今年3月まで神奈川フィルの常任指揮者だった川瀬賢太郎。
客席はほぼ満員。「熱狂の夜」らしく熱狂的な石田ファンも多く、フィナーレにはスタンディング・オベーションで熱烈な拍手を送る人が目立った。
石田は国立音楽大学を首席で卒業後、新星日本交響楽団コンサートマスターを経て、2001年神奈川フィルハーモニー管弦楽団ソロ・コンサートマスターに就任。以来"神奈川フィルの顔"となり、現在は首席ソロ・コンサートマスター。その風貌がこわもてのヤクザの親分みたいで、この日もモヒカンっぽい頭に白ブチのサングラス、だぼだぼズボンの着崩した学ランのような不良スタイルで登場。
いつも座ってるときは大股開きで体を揺すりながらの演奏をしていたが、立って演奏するこの日も、相変わらずのガニ股スタイルだった。
その“ヤクザ”な演奏スタイルと超絶技法の繊細なヴァイオリンの響きとがなぜかうまい具合に融合していて、それが魅力でもある。
初めて彼の演奏を聴いたのは、去年3月に神奈川県民ホールでの神奈川フィルの定期演奏会。やけに個性的なコンマス(コンサートマスター)がいるなーと気になり、以来、神奈川フィルの演奏会にたまに行くようになった。
今年5月からは、月イチで石田泰尚スペシャル「熱狂の夜」シリーズというのが始まり、第1夜はチェロと、第2夜はピアノとのデュオ、第3夜はカルテット、第4夜はアンサンブル、といったようにだんだん共演者を増やしていって、最後の第5夜はフル編成のオケとの共演となった。
このうち、聴きにいったのは7月3日の第3夜、それ続くきのうの第5夜だった。
この日聴いたのは、アメリカ出身の2人の現代音楽家の作品で、2曲とも初めて聴く作品だった。
1曲目はフィリップ・グラスの「ヴァイオリン協奏曲第1番」。
グラスは1937年生まれのアメリカの作曲家で、ミニマル・ミュージックの大御所として知られている人だ。
ミニマル・ミュージックというのは、ミニマル(最小、極小)という言葉のとおり、音素材を切り詰めて反復させたりして使うのを基本とする音楽という。具体的には、少数の音を長く引き延ばしたり、短い音素材を延々と反復させたりするらしいが、同じメロディーを繰り返しながらも、それは少しずつ変化していって、複雑なものに変わり、新しい音の発見につながっていく。
きのうの演奏がまさにそうだった。
2曲目は、ジャズ・トランペットの巨匠ウィントン・マルサリス(1961年~)の「ヴァイオリン協奏曲」。
マルサリスはニューオーリンズの音楽一家に生まれ、ジュリアード音楽院で学ぶ。1980年、18歳にしてプロのジャズ・トランペッターとなり、瞬く間に評判になったが、ほどなくしてクラシック音楽の演奏活動もはじめ、1983年にはグラミー賞でジャズ部門とクラシック部門の両方を同時受賞したという。
きのう聴いた曲は、スコットランド出身のヴァイオリニスト、二コラ・ベネデッティのために書かれ、2015年11月にロンドン交響楽団の演奏で初演された。
2017年にフィラデルフィアで収録された二コラ・ベネデッティ(ヴァイオリン)、フィラデルフィア管弦楽団、クリスティアン・マチェラル指揮のライブ盤は2020年の第62回グラミー賞で最優秀クラシカル・インストゥメンタル・ソロ賞を受賞している。
ラプソディ、ロンド・ブルレスケ、ブルース、フーテナニーの4つの楽章から成っていて、石田のヴァイオリンとともに打楽器が大活躍し、足踏み・手拍子も入って、ジャズの要素もふんだんに盛り込まれた楽しい曲だった。
アンコール曲は、ナイジェル・ヘスの映画音楽「ラベンダーの咲く庭で」より、テーマ、幻想曲。
それでも拍手はなりやまず、井上陽水の「少年時代」。
何でも、今年の「熱狂の夜」シリーズが好評だったものだから(何しろ毎回満席に近い盛況で、そのうち1000人以上の人が5回連続で聴きにきていたという)、再来年も「熱狂の夜」シリーズが実現するらしい。
コンサートのあとは、川崎駅周辺の気のきいたレストランはみんな早々にしまっていた(コロナ禍だったからだろうが)のに懲りて、JR西荻窪駅近くの「山下食堂」で余韻を楽しむ。
ビールのあとは赤ワイン。
オーストラリアの「マイク・プレス・ピノ・ノワール(MIKE PRESS PINOT NOIR)2021」。
料理はおいしそうなのをチョイス。
まず冷菜。
桃が完売のためネクタリンとマスカルポーネと生ハム。
アボカドのフリット、クミンマヨネーズ。
オイルサーディンと甘長、青唐のリングイネ。
しあわせな気分で帰宅。