JR川崎駅に隣接するミューザ川崎シンフォニーホールで、上野通明のチェロ・リサイタルを聴く。ピアノは阪田知樹。
上野は去年のジュネーブ国際音楽コンクールチェロ部門で日本人として初めて優勝した26歳の俊英。一方の阪田も去年、世界三大音楽コンクールの1つとされるエリザベート王妃国際音楽コンクール第4位入賞のやはり俊英で、28歳。
今や日本のクラシックをリードする若き2人のデュオを聴ける幸せを味わう。
会場のミューザ川崎シンフォニーホールは座席数1997席というが、9割がた席が埋まっていて、上野と阪田の人気のほどがわかる。しかも、女性が多い。
このホールの形がちょっと変わっている。
単純な丸でも四角でもなく、螺旋型になっている。
舞台のまわりを、まるで段々畑みたいにブロックに分けられた客席が取り囲むようになっていて、その段々畑は螺旋状に上昇していく空間構成になっている。
舞台と客席の距離感をなるべく近くしようという設計者の意図が感じられ、なかなかいいホールだ。
本日の演奏曲目は、
J・S・バッハ ヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロのためのソナタ 第2番 ニ長調 BWV1028(チェロ&ピアノ版)
パウル・ヒンデミット 無伴奏チェロ・ソナタ op.25-3
フランツ・リスト 悲しみのゴンドラ S.134
フランツ・シューベルト ロンド ロ短調 op.70 D895(原曲:ヴァイオリンとピアノ)
(休憩)
武満徹 オリオン
ベンジャミン・ブリテン チェロ・ソナタ ハ長調 op.65
アンコール曲はフランク・ブリッジの「春の歌」。
2人はこれまで、室内楽では一緒になったことはあるが、デュオは初めてという。
前半の曲は、リストは“リスト弾き”でもある阪田のリクエストらしいが、ほかの3曲は上野がジュネーブ国際音楽コンクールで弾いた曲という。
特に印象的だったのがヒンデミットの「無伴奏チェロ・ソナタ」。前衛的な曲かと思ったら、途中、官能的にさえ聴けるところがあって心に残る。ヒンデミットの28歳ごろの作品というから、若い演奏者と波長が合うところがあるのだろうか。
ブリテンの「チェロ・ソナタ」は、ブリテンが1960年にショスタコーヴィチの「チェロ協奏曲1番」をロストロポーヴィチのチェロ演奏で聴いて感銘を受けてつくった曲という。
上野の演奏は、ロストロポーヴィチの力強く熱い心が伝わってくるような感じがした。
演奏が終わってからの2人のトークも楽しく(最近は演奏者もけっこうお客を前におしゃべりするみたいだ)、阪田のほうが少しお兄さんだからか、うしろの客にもちゃんとおじぎするとか、あいさつの仕方を教えているところもあって、ほほえましかった。
[追記]
コンサートの翌日、ジュネーヴ国際コンクールでの上野の演奏動画が配信されていたので聴いたが、2曲目のヤニス・クセナキスの「コットス」がスゴイ曲で、演奏がすばらしくよかった。
ここから聴けます↓
上野通明 チェロ・リサイタルピアノ:阪田知樹 | 神奈川芸術協会 (kanagawa-geikyo.com)
クセナキスは、大学では建築と数学を学んだという異色の経歴の持ち主で、数学や物理の理論を作曲に応用したというので有名な現代音楽作曲家。
数学的に生成したグラフ図形を元に、縦軸を音高、横軸を時間として音響の変化を記述する形でオーケストラ曲を作曲したりしたらしいが、なるほど、こういう音楽になるのか。
いったいどんな楽譜なんだろうと思った。