善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

カナダ人は田舎者? 「ネプチューンの影」

フレッド・ヴァルガス「ネプチューンの影」(田中千春訳、東京創元社

 

フレッド・ヴァルガスは1957年パリ生まれ。シュールレアリスムの研究者を父に持つ二卵性双生児の姉妹の妹だという。パリ十三区警察署長アダムスベルグ・シリーズの1冊で、CWA賞受賞作というので読む。

 

部下7人とのカナダ研修直前に、アダムスベル署長はかつて弟を巻き込んだ恐るべき事件にひきもどされる。ネプチューンの三叉槍(トリダン)で刺されたような傷がある死体が発見されたのだ。30年前、アダムスベルグの弟が恋人殺しの嫌疑で追われた事件も同じ手口だった。弟の無実を証明すべく、真犯人と確信する男を追い続けていたのだが、男はすでに10数年前に死んでいた・・・。

 

戦中戦後の混乱に乗じたトリックが光る。ただしこのトリック、どこか松本清張の「砂の器」と似ているころがある。

 

それより興味を抱いたのが、アダムスがカナダ・ケベック州にある王立カナダ警察でDNA鑑定研修を受けたときの、パリ警察の刑事たちとカナダ警察の刑事たちとの会話。

日本語訳だから日本語でしゃべっているが、パリ警察の刑事たちが標準語なのに対してカナダ警察の刑事たちは訛り丸出しなのだ。原著はフランス語で、いかにもパリ警察のメンメンはオシャレで都会人で、カナダ警察のほうは野暮ったい田舎者という感じの描き方をしている。

 

たとえば、カナダ警察の主任部長のこんなしゃべり方。

「(研修を)気をば入れてやってくれ。といって、余計な世話はやかんでよい。客人はみな一人前の大人じゃけん」

一体どこの言葉?というような口調だ。

まるで九州弁みたいなしゃべり方。きっと訳者も苦労したに違いない。

 

調べてみたらケベック州の人口の85%以上はフランス語を話し、公用語もフランス語なんだという。

ただし、ケベックのフランス語は今のフランス語とは違って、17、18世紀のころに祖先たちがフランスからカナダに移住してきたころのフランス語。そのころは本国のフランス人から「エレガント」とか「美しいフランス語」といわれていたものの、19世紀に入ると「野暮ったい」「田舎くさい」といわれるようになったという。

日本でいったら「何々でござる」「何々でそうろう」という話し方が今も残っているということか。本来の由緒あるフランス語なのに、現代っ子のフランス人には古めかしく、化石のように受け取られてしまうのだろうか。

むしろ、昔の言葉からこそ学ぶべきなのに。