善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

贖罪の街 炎の色

正月に読んでおもしろかった本。
まずはマイクル・コナリーの「贖罪の街」(訳・古沢嘉通講談社文庫 上・下)。

ロス市警の刑事だったボッシュリンカーン弁護士ハラーの共演による物語。
もともとマイクル・コナリーボッシュ・シリーズとリンカーン弁護士シリーズを別々に書いていたが、最近は両者が同時に登場することが多くなっている。
それはそれで刑事物とリーガル物が一度に楽しめて、1粒で2度おいしいグリコみたいな小説。
ちなみにリンカーン弁護士というのは、経費節約のため車のリンカーンを事務所がわりに使っているというのでそう呼ばれる。(その後、有名になって、今は自前の事務所を持ってるだろが。何しろ映画にもなったし)

原題は「The Crossin」。
今回、ボッシュは刑事訴追側の立場から弁護側の立場になって事件を追う。それは警察仲間からみると「司法から弁護士側への横断」=「裏切り行為」と見なされるらしくて、「横断」の意味から「The Crossin」という題名なった。
それじゃわからないだろうと邦訳の題は「贖罪の街」。
よけいわからん。

小説の中でウイスキーの話が出ていて、ハラーが好きなのは「ウッドフォード・リザーブ」というバーボンウイスキーらしい。
バーボンといえばワイルドターキーとかI・W・ハーパー、ジムビームなんかは知ってるけど、初めて聞く銘柄。
バーボンの世界は深いんだな。
今度飲んでみよーっと。

おもしろかったもう1冊はピエール・ルメートルの「炎の色」(訳・平岡敦、早川書房)。
「天国でまた会おう」に続く歴史物というか痛快小説。
前作は第1次大戦を生き抜いた若者の物語だったが、今回の舞台は、ナチスドイツが台頭し、フランスにもファシズムの信奉者がいたという第2次大戦前夜。
タイトルの由来はフランスの詩人ルイ・アラゴンが1941年に発表した「リラと薔薇」という詩の一節からとられているという。

日本の詩人の大島博光の訳で、次のような詩だ。

リラと薔薇

おお 花の咲く月 虫の姿をかえる月
雲のなかった五月と 匕首を突き刺された六月と
おれはけっして忘れまい リラと薔薇とを
春が その襞(ひだ)のなかで まもった人たちを

おれは忘れまい 恐ろしい悲劇の幻(まぼろし)を
長い行列や叫び声や むらがる群衆や太陽を
愛を積み込んだ戦車や ベルギーの贈り物を
わなわな顫える大気や 蜜蜂の唸るような街道を
論議にうち勝った 得(とく)とくとした入城を
くちづけの紅(べに)が 赤く描いた血の色を
熱狂した民衆が リラで飾った砲塔に
つっ立ったまま 死ににゆく ひとたちを

おれは忘れまい 消えうせた数世紀の
ミサの祈祷書にも似た フランスの庭を
夜な夜なの騒ぎと なぞを秘めた沈黙を
長く伸びた道ぞいに 咲きでた薔薇を
恐怖をまき散らして 通り過ぎる兵士どもに

狂った自転車部隊に 皮肉な大砲に
野宿者(キャンパー)まがいの 身なりも哀れな兵隊どもに
そして恐怖の嵐に 雄雄しく立ち向った花花を

なぜか知らぬが これらの光景の渦巻きは
わたしをいつも同じ停留所へと連れてゆくのだ
サントマルトへ 黒い花模様をつけた将軍へ
森のほとりの ノルマンディ風な別荘へと
みんなが黙りこんで 敵は闇の中でひと休み
こん夜きけば パリはついに陥ちたという
おれはけっして忘れまい リラと薔薇とを
そうしてわれらがうしなった 二つの愛を

最初の日の花束はリラ フランドルのリラよ
死者の頬を色どる そのやさしい影よ
そしてきみたち隠れ家の花束 やさしい薔薇たち
はるか遠い戦火の色をした アウジウの薔薇たち