善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

マイクル・コナリー 鬼火

マイクル・コナリー「鬼火」(古沢嘉通・訳、講談社文庫、上下巻)を読む。

 

マイクル・コナリーのミステリーに登場する主人公、元ロス市警刑事のハリー・ボッシュ、異母弟の弁護士ミッキー・ハラー、それにロス市警ハリウッド分署深夜勤務担当刑事レネイ・バラードの3人揃い踏みのシリーズ最新作。

ボッシュ・シリーズとしては22作目だが、ボッシュは本作で69歳。ロス市警を定年退職後も元刑事として活躍しているものの、今回は杖をつくシーンもあるほど寄る年波には勝てず、というところ。そこで3作ぐらい前から若い女性刑事のバラードが登場してきているし、愛車のリンカーンを事務所がわりにしているのでリンカーン弁護士の異名を持つミッキー・ハラーも“応援”に駆けつけていて、なかなか読みごたえある作品。

 

最初は関係ないと思われた3つの異なる事件が、複雑に重なり合い、やがて怒濤の展開へ。ミステリーの醍醐味ここにあり。

原題は「THE NIGHT FIRE」。直訳すれば「夜の炎」となるが、訳者によれば「鬼火」「狐火」「幻影」「惑わすもの」といった意味という。

 

ハリー・ボッシュが新人の殺人事件担当刑事だったころ、パートナーを組んで殺人事件に関する取り組み方を一から教えてくれた恩師にあたるジョン・ジャック・トンプスン元刑事が亡くなり、ボッシュが葬儀に参列したところ、未亡人から夫が自宅に残していた一冊の殺人事件調書を託される。20年前、ロス市警を引退したトンプスンはその調書を市警から盗んで、自宅に保管していたらしい。
その事件とは、1990年に起こった元服役囚で麻薬中毒者の白人男性ジョン・ヒルトン(24歳)がハリウッドの路地で後頭部を撃たれて亡くなった未解決事件だった。
恩師の執着していた未解決事件を解決すべく、ボッシュはバラードに協力を求める。
また、ボッシュは、弁護士のミッキー・ハラーが担当しているモンゴメリー上級裁判事暗殺事件裁判に被告側調査員として協力もしていた。モンゴメリーは日中に裁判所近くの公園で刺殺され、現場に残されたDNAが一致したことでジェフリー・ハーシュタットが逮捕され、裁判にかけられていた。ハーシュタットは自供もしており、有罪必至の状況だった。
一方、夜勤専門の刑事バラードは、ホームレス男性の焼死事件の現場に出向いていた。テントに暮らしていたエディことエディスン・バンクス・ジュニアが、大量のアルコールを摂取して寝ているうちにうっかり石油ヒーターを倒して、その火が全身に移り、焼死したらしい。事故死とみて、バラードはロス市消防署に処理を任せたが・・・。
これら3つの事件(「元服役囚殺害事件」「裁判所判事暗殺事件」「ホームレス焼死事件」)が複雑に重なり合い、「終盤の怒濤の展開は近年屈指の作品に仕上がった」と訳者のあとがきにあるが、正にそのとおり。

しかもただのナゾ解きではなく、事件の背後にある登場人物たちの「人生」も描かれていて、秀逸な警察小説となっている。