善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

リューイン「祖父の祈り」とコナリー「潔白の法則」

マイケル・Z・リューイン「祖父の祈り」(田口俊樹訳、ハヤカワ・ポケット・ミステリ

アルバート・サムスン」シリーズや「パウダー警部補」シリーズのマイケル・Z・リューインの最新作。

1942年生まれだから今年80歳になるはずだが、健在を示す一作。

 

未知のウイルスのパンデミックによって荒廃した世界。治安は著しく悪化し、物資も滞り、丘の上と下とでは貧富の差が広がるばかりとなっていた。

そんなアメリカのある町に、感染症で最愛の妻を亡くした老人がいた。残された娘や15歳になる孫の男の子を失ってはなるものかと、ときに商店から食料品をくすねながらも、懸命に生きる日々を送っていた。

犯罪者や警官たちの横暴で町の状況がますます悪化していく中、両親に虐待され人身売買で売られようとして逃れてきた13歳の少女を匿うが、少年と少女との間に芽生えるのは、友情か恋か。

ところが警察は、少女を捕まえようと捜索の手を伸ばしてくる。

家族を守るため、老人が下した決断は・・・。

 

老人の少年時代からの思い出から始まり、過去と今を交錯させながら、含蓄のある老人の独り言みたいな語り口(訳者の功績でもあるが)がしみじみとしていて、読んでいて癒される。

新型コロナが世界中に蔓延し、最悪の事態となった近未来を描いているようでもあるが、貧富の差がますます広がる歪んだ現代社会の今を描く作品ともいえる。

原題は「WHATEVER IT TAKES」で、「命をかけて」といった意味だろうか。

老人は残り少ない命をかけて、娘を、孫を、見知ったばかりの少女を守ろうとする。

希望に向かって生きていこうとする終わり方だが、彼らの前途に明るい未来はない。

それでも心温まる終わり方なのは、どんな絶望の中でも家族や仲間が支えあって生きようとしているとき、人はやさしい気持ちになるからなのではないか。

 

その前に読んだのは、マイクル・コナリーリンカーン弁護士シリーズ「潔白の法則」(上・下、古沢嘉通訳、講談社文庫)

 

高級車リンカーンをオフィス代わりにしている刑事弁護士、ミッキー・ハラーが殺人容疑で逮捕された。被害者の射殺体はハラーの車のトランクにあり、銃弾が彼の自宅ガレージで見つかったのだ。

収監されたハラーは、一度は保釈されたものの再逮捕によって改めて自由を奪われる。自らの無実を立証するため、異母兄の元ロス市警刑事ハリーや元妻たちの支援を得て、自分自身を弁護する本人訴訟に臨むが・・・。

 

警察や検察との駆け引きや、法廷での緊迫した攻防など、実に詳しくて読みどころ満載。

本書の訳者あとがきで紹介されている書評でも「コナリーの小説は、警察や法廷のやり方を正確に把握する能力など、司法制度の複雑さに精通していることで長きにわたり評判」(ブルース・デシルヴァ、AP通信)、「このミッキー・ハラーを主人公にしたシリーズでは、コナリーは法廷場面を描くのに常に卓越した能力を発揮」(ビル・オット、ブックリスト星付きレビュー)などとあるように、そのリアルさに自国民でさえ感心しているのだから、海を越えてアメリカの裁判制度なんてまるで知らない日本人にとっても、大いに学ばせられる小説といえよう。

ちなみに本書でも、新型コロナの波がひたひたと迫ってくる様子が描かれていて、それが裏テーマとなっている。