善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

#小説

ジェイムズ・A・マクラフリン 熊の皮

ジェイムズ・A・マクラフリン著「熊の皮」(ハヤカワ・オステリ、青木千鶴訳)を読む。 2019年のアメリカ探偵作家クラブ賞(エドガー賞)最優秀新人賞に輝いた作品。 ミステリーというより自然と融合したような冒険ノワール。 主人公はアパラチア山脈の一角に…

マイクル・コナリー 訣別

マイクル・コナリー「訣別」(上・下、古沢嘉通訳、講談社文庫) 原題は「The Wrong Side of Goodbye」 ロサンゼルス市警の刑事で一匹オオカミのハリー・ボッシュを主人公としたシリーズの19作目。ちなみにボッシュの本名はヒエロニムス・ボッシュ(Hieronymus…

木内昇 化物蝋燭

木内昇の「化物蝋燭」(朝日新聞出版)を読む。 江戸の市井を舞台にした7つの奇譚集。 読んでいるうちに心が優しくなる怪談話。 背筋が寒くなる話もあった。 何年か前、「光炎の人」を読んで以来ファンになった。 前作の「求道恋々」も痛快でおもしろかった…

A・J・フィン ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ

A・J・フィン「ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ」( 上・下巻、池田真紀子訳、早川書房) 精神分析医のアナ・フォックスは、夫と娘と離れてニューヨークの高級住宅地の屋敷に10カ月もひとりこもって暮らしていた。広場恐怖症のせいで、そこから一歩たりとも…

アンドレアス・フェーア 弁護士アイゼンベルク

アンドレアス・フェーア「弁護士アイゼンベルク」(酒寄進一訳、創元社文庫)を読む。 ドイツのミステリー。著者のアンドレアス・フェーアはドイツのバイエルン州生まれ。バイエルン州の放送メディアで法律関係の職務に携わりながら、1991年からミステリ・ド…

ブルックリンの少女

ギヨーム・シュッソ「ブルックリンの少女」(吉田恒雄訳、集英社文庫)。 人気小説家のラファエルは、婚約者のアンナと南フランスで休暇を楽しんでいた。なぜか過去をひた隠しにするアンナに彼が詰め寄ると、観念した彼女が差し出したのは衝撃的な光景の写真…

贖罪の街 炎の色

正月に読んでおもしろかった本。 まずはマイクル・コナリーの「贖罪の街」(訳・古沢嘉通、講談社文庫 上・下)。 ロス市警の刑事だったボッシュとリンカーン弁護士ハラーの共演による物語。 もともとマイクル・コナリーはボッシュ・シリーズとリンカーン弁…

監禁面接

ピエール・ルメートル「監禁面接」(橘明美訳・文藝春秋) 最新作とかいってるけど、2011年の「その女アレックス」のヒット以来それまで日本ではあまり知られてなかったルメートルの発掘?出版が続いていて、本書も2010年の作品。 原題は「Cadres coirs」 「…

偽りの銃弾

「偽りの銃弾」(ハーラン・コーベン、訳・田口俊樹、大谷瑠璃子。小学館文庫)を読む。 何者かに夫を射殺された元特殊部隊ヘリパイロットのマヤ。2週間後、自宅に設置した隠しカメラに映っていたのは殺されたはずの夫だった。夫の死の謎を追い、マヤは姉ク…

そしてミランダを殺す

最近読んだミステリーの中でおもしろかったのが「そしてミランダを殺す」(創元推理文庫)。 ピーター・スワンソン作、務台夏子訳。 実業家のテッドは空港のバーで見知らぬ美女リリーに出会う。 彼は酔った勢いで妻ミランダの浮気を知ったことを話し「妻を殺…

池上永一 ヒストリア

池上永一の「ヒストリア」(角川書店)を読む。 沖縄を舞台に描いた「テンペスト」以来のファンだが、今回も主人公は沖縄の女性。 第二次世界大戦の米軍の沖縄上陸作戦で家族すべてを失い、魂(マブイ)を落としてしまった知花煉(れん)。一時の成功を収め…

ジュリア・ダール「インヴィジブル・シティ」

「インヴィジブル・シティ」(ジュリア・ダール、訳・真崎義博、ハヤカワ・ミステリ文庫)を読む。 作者のデビュー作で、エドガー賞(アメリカ探偵作家クラブ賞)の最優秀新人賞にノミネートされ、その後、アメリカ私立探偵作家クラブのシェイマス賞や、マカ…

球道恋々

木内昇の「球道恋々」(新潮社)を読む。 おもしろくて一気読み。 最近読んだ本では恩田陸の「蜜蜂と遠雷」もそれなりにおもしろかったが、ピアノという音の世界をよくもあれだけの文学にしたなー、と感嘆はしたものの、物語自体は予想通りの展開で特に読後…

フロスト始末

いつ出版されるかと待ち焦がれていたフロスト警部シリーズの最終作「フロスト始末」(芹澤恵訳・創元推理文庫)を読む。 作者のR・D・ウィングフィールドは1928年ロンドン生まれ。2007年没。翌08年にシリーズ最終作が出版される。それが本書。ようやく今年に…

「陸王」が問う企業とは何か?

遅ればせながら池井戸潤『陸王』(集英社)を読む。 行田市にある足袋づくり100年の歴史を持つ老舗零細メーカー「こはぜ屋」が世界のブランドメーカーに抗してランニングシューズづくりに挑む物語。 「陸王」とはこはぜ屋がつくるシューズの名前。 読み始め…

木内昇「光炎の人」

木内昇「光炎の人」(上下巻、角川書店)を読む。 技術(というより技術者、科学者)がいかに時代の動きと密接に結びついていて、ときとして暴走さえしてしまうことを教えてくれる小説だった。 その意味で、読んでいておもしろかったが、読後感は重い。 時は…

マイクル・コナリー「転落の街」

マイクル・コナリー「転落の街」(上下巻、古沢嘉通・訳、講談社文庫)を読む。 「リンカーン弁護士」以来マイクル・コナリーを読み続けているが、どの作品もハズレがない。 今回の主人公は齢(よわい)60歳にして定年を迎えようとしているロス市警強盗殺人…

スティヴ・キャヴァナー「弁護士の血」

スティヴ・キャヴァナー「弁護士の血」(訳・横山 啓明、ハヤカワ・ミステリ文庫)。 去年出版された本だが一気に読んでしまった。 作者は北アイルランドのベルファスト生まれ。皿洗い、用心棒、警備員、コールセンターのオペレーターなどの仕事を経て、弁護…

三浦綾子「母」

三浦綾子の「母」(角川文庫)を読む。 「蟹工船」の作者として知られるプロレタリア作家・小林多喜二の母、小林セキさんの物語だ。 先日、三浦綾子原作の映画「母―小林多喜二の母の物語」が寺島しのぶ主演でクランクインしたとのニュースを知った。 監督は…

ジェフリー・ディーヴァー『煽動者』

ジェフリー・ディーヴァー『煽動者』(池田真紀子訳・文藝春秋)を読む。 キネシクス(ボディランゲージを分析する科学という)を駆使して犯人に迫るキャサリン・ダンス捜査官シリーズの4作目。 “人間嘘発見器”の異名をとる尋問のエキスパート、キャサリン・…

ピエール・ルメートル「傷だらけのカミーユ」

ピエール・ルメートル「傷だらけのカミーユ」(橘明美訳、文春文庫)を読む。 フランスの作家で1951年生まれだから今年65歳。 「その女アレックス」「悲しみのイレーヌ」に続くカミーユ警部シリーズ三部作の完結編という。 前2作も意表をつく意外な展開にう…

朝井まかて『眩(くらら)』

このところ、いろいろ本を読んでも感想を書く気にはならなかったが、久しぶりに書きたくなった本を読んだ。 朝井まかて『眩(くらら)』(新潮社) 葛飾北斎の娘、お栄の人生を描いた小説。 お栄は生没年不明でナゾの多い女性絵師。号を応為(おうい)といっ…

「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう」と大吟醸

山本巧次『大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう』(宝島社文庫)を読む。 2015年『このミステリーがすごい! 』大賞の最終選考までいったが受賞は逃し、このままボツにするのはもったいないというので「隠し玉」とかいう賞?をもらった作品。 文政の江戸を舞台に、…

証言拒否 リンカーン弁護士

マイクル・コナリー『証言拒否 リンカーン弁護士』(上・下、吉沢嘉通訳、講談社文庫) 自分の事務所がリンカーンの車内という弁護士ミッキー・ハラーのシリーズ4作目。 ローン未払いを理由に家を差し押さえられたシングルマザーが、大手銀行副社長撲殺の容…

ミレニアム4 蜘蛛の巣を払う女

ダヴィド・ラーゲルクランツ『ミレニアム4 蜘蛛の巣を払う女 (上・下)』(早川書房) 1から3まで続いたスティーグ・ラーソン作の3部作の続編。 同じスウェーデンの別の作家がシリーズを受け継ぎ、第4作を完成させた。 これが本作で、おもしろくて一気に読ん…

天国でまた会おう

ピエール・ルメートル『天国でまた会おう』(平岡敦訳、早川書房)。 著者は『その女アレックス』『悲しみのイレーヌ』などでこのところ日本でも評判の作家。 この2作のミステリーは、奇抜な発想でおもしろくは読めても作品のデキとしては「どうかな?」と首…

特捜部Q 吊された少女

ユッシ・エーズラ・オールスン『特捜部Q 吊された少女』(吉田奈保子訳、ハヤカワポケットミステリーブック) 特捜部Qシリーズの第6弾。デンマーク・コペンハーゲン警察に設置された特捜部Qの責任者で警部補のカール・マークと助手のアサド、ローセのやりと…

スキン・コレクター

ジェフリー・ディーヴァー『スキン・コレクター』(池田真紀子訳、文藝春秋)を読む。 『ボーン・コレクター』(1997年)に始まるリンカーン・ライム・シリーズの第11作目。今回登場するのは被害者に毒薬でタトゥーを刻んで殺す殺人者。「ボーン・コレクター…

アルファベット・ハウス

この1週間ほどで2冊のミステリーを読む。 1冊はユッシ・エーズラ・オールスンの『アルファベット・ハウス』(鈴木恵訳、ハヤカワ・ポケットミステリーのちょうど1900冊目)、もう1冊はピエール・ルメートル『悲しみのイレーヌ』(橘明美訳、文春文庫)。日本…

『偽りの楽園』とトロール

トム・ロブ・スミス『偽りの楽園』(田口俊樹訳、新潮文庫・上下) 『チャイルド44』でデビューした作家の最新作。 なお以下はネタバレになるやもしれないので本書を未読の方はご用心。 あらすじは、両親はスウェーデンで幸せな老後を送っていると思っていた…