オインカン・ブレイスウェイト「マイ・シスター、シリアルキラー」(栗飯原文子訳、ハヤカワ・ポケミス)を読む。
ナイジェリアのミステリー。
2019年のロサンゼルス・タイムズ賞(ミステリ部門)、アンソニー賞最優秀新人賞、アマゾン・パブリッシング・リーダーズ賞を受賞し、同年、ブッカー賞の候補、20年には全英図書賞(犯罪・スリラー部門)を受賞している。
「マイ・シスター、シリアルキラー」という題名がすごい。
「シリアルキラー」とは「連続殺人者」、それも「猟奇的な」という意味合いも含む「連続殺人者」のことで、「私の妹は連続殺人者」というわけか。すごいといえば訳者の栗飯原文子さんの名前もすごい、というか変わってる、というか美味しそうな名前。「栗飯原」と書いて「あいはら」と読む。中世に活躍した武家の苗字だそうで、歴史がありそうだ。
作者のオインカン・ブレイスウェイトは1988年ナイジェリア生まれというから今年33歳の若手女性作家。
舞台はナイジェリアの大都市ラゴス。母と妹のアヨオラとともに暮らす看護師コレデ。お手伝いさんがいる裕福な家庭のようだが、地味で真面目で、あまり男性にモテるタイプではないコレデに対して、妹のアヨオラは誰からも好かれて、しかも飛び切りの美人。ところが、アヨオラには変なクセ?があって、付き合っていた彼氏をなぜか次々と殺してしまうのだ。もうこれで3人目。コレデは、妹を守るために犯行の隠蔽を続けるが・・・。
軽快かつ簡素な書き方で、小さな話が小刻みに続いていくのでとても読みやすく、あっという間に読み終えた。
普段はあどけなくてかわいい妹が、付き合っている男を次々と殺してしまう、というシチュエーションは、クモの一種であるブラック・ウィドウ・スパイダー(クロゴケグモ)のメスが、交尾のあとにオスを食べてしまうという話から着想を得たという。
そういえば日本にも外来種のセアカゴケグモとかハイイロゴケグモなんかが侵入してきて問題になったことがある。
妹が連続殺人者なんて、普通に考えれば陰惨な話になるはずだが、本書を読むとなぜかそんな気持ちにはならず、「人間も結局は動物と一緒なのかな」と妙に納得してしまう。
訳者のあとがきによると、ナイジェリアではどんなに暗い陰鬱な話であっても、ユーモアを交えて語られる向きがあるのだという。
本書でも、独特のユーモアが織り交ぜられていて、重い話であるはずなのに軽い空気がただよっている。
それは、命を軽く考えているということではなくて、何ごとにも前向きに生きようとする女性たちの軽やかさなのかもしれない。