善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

きのうのワイン+映画「グエムル-漢江の怪物-」他

ニュージーランドの赤ワイン「セラー・セレクション・ピノ・ノワール(CELLAR SELECTION PINOT NOIR)2020」

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ワイナリーはニュージーランド北島東海岸沿いに広がる国内屈指のワインの産地、ホークス・ベイにあるシレーニ。

ワイナリー名は、ローマ神話に登場する酒の神であるバッカスの従者であり、「おいしいワイン、食事、そして素晴らしい仲間」との生活を楽しんだというシレーニ神に由来している。

ホークス・ベイの中でもより内陸部の標高が高い場所に位置するシレーニの畑で採れたピノ・ノワール100%。

 

ワインの友で観たのは、民放のBSで放送していた韓国映画グエムル-漢江の怪物-」。

2006年の作品。

監督ポン・ジュノ

出演ソン・ガンホ、ピョン・ヒョボン、パク・ヘイル、ペ・ドゥナ、コ・アソン。

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監督ポン・ジュノは「パラサイト 半地下の家族」(2019年)でアカデミー賞の作品賞はじめ4部門を受賞したが、本作は「パラサイト・・・」と二重写しになるような映画。

「パラサイト・・・」より13年も前につくられているが、監督はすでに2006年のそのころから(実際にはもっと前からだろうが)、同じ思い、同じまなざしを持って映画をつくっていたのだろう。

それは、貧富の格差を容認する社会とか他国の軍隊(アメリカ軍)の駐留を許す半植民地の現状といった、歪んだ現実を告発するまなざしである。

 

本作は、韓国の首都ソウルを流れる漢江(ハンガン)に突如出現した怪物「グエムル(韓国語で怪物の意味)」を巡るパニック映画だが、描かれているのは、グエムルにさらわれた娘を助け出そうと、国からも警察からも見放されながらも(というよりなかったことにさせられながらも)一家が団結して奔走する姿だ。

娘の父親である兄は、いつも居眠りばかりしている情けない男。なぜ居眠りばかりしているかというと、子どものころから家が貧しくて栄養が足りず、それでぼうっとしていて寝てばかりいる人物になってしまったのだという。大学は出たけれど職のない弟。マイペースすぎる妹は、アーチェリー選手でオリンピック銅メダリスト。

いずれも「パラサイト・・・」に登場する人物にダブる。

「パラサイト・・・」では、4人家族全員が失業中で、父親は事業に失敗し頼りなさそうな中年男で、母親は元ハンマー投げの選手でオリンピックメダリストなのに雇ってくれるところがなくやっぱり失業中。長男は4度も大学受験に失敗して浪人中。

どちらの作品も、格差社会が生み出した貧しさの中で、それでもたくましく生きる人々に焦点があたっている。

 

映画は、漢江に突如現れた巨大な魚みたいな爬虫類みたいなグエムルが人々を襲い始めることから始まるが、なぜグエムルがあらわれたかというと、その原因は日本映画の「ゴジラ」に似ている。

ゴジラアメリカのビキニ環礁での水爆実験によって生まれたが、漢江のグエムルが生まれたのも、在韓米軍基地内で使う劇薬のホルムアルデヒドを「いらなくなったから」という勝手な理由で大量に下水に流したからだった。

2000年に在韓米軍基地から大量のホルムアルデヒドが漢江に流された実際の事件がヒントになっているという。

この事件では、垂れ流しをした米軍の担当責任者を韓国の検察当局が起訴。ところが、米軍は韓国と結んだ地位協定を盾に「公務中の米兵が起こした事件の裁判権は米軍にある」として、被告となった米兵の身柄引き渡しを拒否。裁判で有罪となり実刑判決が言い渡されるも、米側は判決を無視する姿勢をとったという。

これには韓国国民は猛烈に怒り、地位協定見直しの動きにつながったといわれる。

ポン・ジュノ監督も怒った一人であり、それが本作につながったのだろう。

実は悲劇なんだけど笑うシーンが満載で、その笑いこそが、厳しく告発する言葉とは一味違ったポン・ジュノ監督のやり方なのなのではないか。

笑いの中で韓国の政治・社会を鋭く風刺しているのが本作といえよう。

 

ついでにその前に観たのも民放のBSで放送していた韓国映画「暗数殺人」。

2019年の作品。

監督キム・テギュン、出演キム・ユンソク、チュ・ジフンほか。

 

実際の連続殺人事件をモチーフに、7人を殺したと告白する殺人犯と、その言葉に翻弄される刑事の姿を描いたクライムサスペンス。

 

恋人を殺害した容疑で逮捕されたカン・テオ(チュ・ジフン)から「全部で7人殺した」という突然の告白を受けた刑事キム・ヒョンミン(キム・ユンソク)。しかし、テオの証言以外に証拠はなく、警察内部でもテオの言うことを信じる者はいない。それでも、テオの言葉が真実であると直感的に確信したヒョンミンは、上層部の反対を押し切り捜査を進めていく。やがて、テオの証言通りに白骨化した遺体が発見されるが、その途端、テオは「死体を運んだだけ」と証言を覆す・・・。

 

暗数とは、実際に起こった犯罪のうち、何らかの原因で犯罪統計では把握されていない犯罪の数をいう。一般には警察が認知した犯罪数を「犯罪発生数」とみなすが、厳密にはそれは「犯罪認知件数」にすぎず、被害者も気がつかない犯罪もあれば、気づいても警察に届けなかったとか、殺人があったとしても誰も気がつかないままでいるケースもあるという。埋もれたままの殺人、つまり暗数殺人は、いったいどれほどあるのだろうか?

考えただけでも寒けがする。