善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

BOOK

国谷裕子「キャスターという仕事」

国谷裕子「キャスターという仕事」(岩波新書)を読む。 国谷さんは1993年から2016年までの23年間にわたってNHK総合の「クローズアップ現代」のキャスターをつとめてきた人。 キャスターになる前の駆け出し時代も含め、テレビ報道に従事した彼女の30数年間が…

井上都 ごはんの時間

井上都『ごはんの時間 井上ひさしがいた風景』(新潮社) 亡くなった作家・井上ひさしの長女である著者が父といた日々を振り返りながら綴ったエッセイ集。 2014年4月から16年3月までに2年間、毎日新聞夕刊に毎週掲載したコラムをまとめたものという。 父と母…

「陸王」が問う企業とは何か?

遅ればせながら池井戸潤『陸王』(集英社)を読む。 行田市にある足袋づくり100年の歴史を持つ老舗零細メーカー「こはぜ屋」が世界のブランドメーカーに抗してランニングシューズづくりに挑む物語。 「陸王」とはこはぜ屋がつくるシューズの名前。 読み始め…

木内昇「光炎の人」

木内昇「光炎の人」(上下巻、角川書店)を読む。 技術(というより技術者、科学者)がいかに時代の動きと密接に結びついていて、ときとして暴走さえしてしまうことを教えてくれる小説だった。 その意味で、読んでいておもしろかったが、読後感は重い。 時は…

マイクル・コナリー「転落の街」

マイクル・コナリー「転落の街」(上下巻、古沢嘉通・訳、講談社文庫)を読む。 「リンカーン弁護士」以来マイクル・コナリーを読み続けているが、どの作品もハズレがない。 今回の主人公は齢(よわい)60歳にして定年を迎えようとしているロス市警強盗殺人…

スティヴ・キャヴァナー「弁護士の血」

スティヴ・キャヴァナー「弁護士の血」(訳・横山 啓明、ハヤカワ・ミステリ文庫)。 去年出版された本だが一気に読んでしまった。 作者は北アイルランドのベルファスト生まれ。皿洗い、用心棒、警備員、コールセンターのオペレーターなどの仕事を経て、弁護…

三浦綾子「母」

三浦綾子の「母」(角川文庫)を読む。 「蟹工船」の作者として知られるプロレタリア作家・小林多喜二の母、小林セキさんの物語だ。 先日、三浦綾子原作の映画「母―小林多喜二の母の物語」が寺島しのぶ主演でクランクインしたとのニュースを知った。 監督は…

ジェフリー・ディーヴァー『煽動者』

ジェフリー・ディーヴァー『煽動者』(池田真紀子訳・文藝春秋)を読む。 キネシクス(ボディランゲージを分析する科学という)を駆使して犯人に迫るキャサリン・ダンス捜査官シリーズの4作目。 “人間嘘発見器”の異名をとる尋問のエキスパート、キャサリン・…

ピエール・ルメートル「傷だらけのカミーユ」

ピエール・ルメートル「傷だらけのカミーユ」(橘明美訳、文春文庫)を読む。 フランスの作家で1951年生まれだから今年65歳。 「その女アレックス」「悲しみのイレーヌ」に続くカミーユ警部シリーズ三部作の完結編という。 前2作も意表をつく意外な展開にう…

朝井まかて『眩(くらら)』

このところ、いろいろ本を読んでも感想を書く気にはならなかったが、久しぶりに書きたくなった本を読んだ。 朝井まかて『眩(くらら)』(新潮社) 葛飾北斎の娘、お栄の人生を描いた小説。 お栄は生没年不明でナゾの多い女性絵師。号を応為(おうい)といっ…

「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう」と大吟醸

山本巧次『大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう』(宝島社文庫)を読む。 2015年『このミステリーがすごい! 』大賞の最終選考までいったが受賞は逃し、このままボツにするのはもったいないというので「隠し玉」とかいう賞?をもらった作品。 文政の江戸を舞台に、…

証言拒否 リンカーン弁護士

マイクル・コナリー『証言拒否 リンカーン弁護士』(上・下、吉沢嘉通訳、講談社文庫) 自分の事務所がリンカーンの車内という弁護士ミッキー・ハラーのシリーズ4作目。 ローン未払いを理由に家を差し押さえられたシングルマザーが、大手銀行副社長撲殺の容…

73億人が一斉にジャンプすると何が起こるか

ランドール・マンロー『ホワット・イフ?』(吉田三知世訳・早川書房)。 ニューヨーク・タイムズのベストセラーリストに34週連続ランクインした本という。元NASAの研究者が、あらゆる突拍子もない疑問に対して科学的立場から答えている。 読んでておもしろ…

ミレニアム4 蜘蛛の巣を払う女

ダヴィド・ラーゲルクランツ『ミレニアム4 蜘蛛の巣を払う女 (上・下)』(早川書房) 1から3まで続いたスティーグ・ラーソン作の3部作の続編。 同じスウェーデンの別の作家がシリーズを受け継ぎ、第4作を完成させた。 これが本作で、おもしろくて一気に読ん…

天国でまた会おう

ピエール・ルメートル『天国でまた会おう』(平岡敦訳、早川書房)。 著者は『その女アレックス』『悲しみのイレーヌ』などでこのところ日本でも評判の作家。 この2作のミステリーは、奇抜な発想でおもしろくは読めても作品のデキとしては「どうかな?」と首…

特捜部Q 吊された少女

ユッシ・エーズラ・オールスン『特捜部Q 吊された少女』(吉田奈保子訳、ハヤカワポケットミステリーブック) 特捜部Qシリーズの第6弾。デンマーク・コペンハーゲン警察に設置された特捜部Qの責任者で警部補のカール・マークと助手のアサド、ローセのやりと…

スキン・コレクター

ジェフリー・ディーヴァー『スキン・コレクター』(池田真紀子訳、文藝春秋)を読む。 『ボーン・コレクター』(1997年)に始まるリンカーン・ライム・シリーズの第11作目。今回登場するのは被害者に毒薬でタトゥーを刻んで殺す殺人者。「ボーン・コレクター…

電気は誰のものか 電気の事件史

田中聡『電気は誰のものか 電気の事件史』(晶文社)を読む。 おそらく筆者は本書をまとめながら、2011年の東京電力福島第一原発の事故のことが終始頭から離れなかったのだろう。 「電気は誰のものか?」と問いかけながら、明治から戦前までに起こった「電気…

アルファベット・ハウス

この1週間ほどで2冊のミステリーを読む。 1冊はユッシ・エーズラ・オールスンの『アルファベット・ハウス』(鈴木恵訳、ハヤカワ・ポケットミステリーのちょうど1900冊目)、もう1冊はピエール・ルメートル『悲しみのイレーヌ』(橘明美訳、文春文庫)。日本…

鉄腕アトムの歌が聞こえる

橋本一郎『鉄腕アトムの歌が聞こえる〜手塚治虫とその時代〜』(少年画報社)を読む。 筆者は元・担当編集者。日本初のテレビアニメ『鉄腕アトム』の主題歌をソノシートにする許可を得ようと、手塚治虫の仕事場を訪ねた昭和38年(1963)からの手塚治虫をめぐ…

ヘンな論文

サンキュータツオ『ヘンな論文』(角川学芸出版)を読む。 “珍論文コレクター”だというお笑い芸人のサンキュ-タツオ氏が集めた「ヘンな論文」についての考察。 図書館にある論文誌を片っ端から眺めておもしろそうなのを選んだという。 たとえば『日本建築学…

『偽りの楽園』とトロール

トム・ロブ・スミス『偽りの楽園』(田口俊樹訳、新潮文庫・上下) 『チャイルド44』でデビューした作家の最新作。 なお以下はネタバレになるやもしれないので本書を未読の方はご用心。 あらすじは、両親はスウェーデンで幸せな老後を送っていると思っていた…

ブレヒト『アンティゴネ』と現代日本の悲劇

ブレヒト作『アンティゴネ』の新訳が出たというので読む。光文社古典新訳文庫版で谷川道子(東京外大名誉教授)訳。 ブレヒトの訳者としては岩淵達治が有名だが、それと比べてどうかわったかは、岩淵訳も含めて旧訳をまるで読んでないので不明。 ともかく読…

物書同心居眠り紋蔵

佐藤雅美の「物書同心居眠り紋蔵」シリーズの最新作『御奉行の火照り』(講談社)。 巻末の一覧表をみると本作で14冊目となる。 彼の作品は時代考証──特に江戸の経済とか司法の仕組みなど──がしっかりしているので安心して読める。 今回読んでいて、紋蔵の生…

シルクロード・路上の900日

大村一朗『シルクロード路上の900日 西安・ローマ1万2000キロを歩く』(めこん)を読む。 図書館の新着図書のコーナーに置いてあったので手にとる。奥付を見たら2004年発行とあり、けっこう古い本だった。 620ページからなる分厚い本だったが、日記風なので…

死のドレスを花婿に

フランスのミステリー作家、ピエール・ルメートル『死のドレスを花婿に』(文春文庫)を読む。 昨年のミステリーランキングの話題をさらった『その女アレックス』の作者の小説というので手にとる(日本でこの人の本はまだ2冊しか出ていない。フランス本国で…

『ブエノスアイレスに消えた』とアルメニア料理

グスタボ・マラホビッチ『ブエノスアイレスに消えた』(宮崎真紀訳、ハヤカワポケミス)を読む。 アルゼンチン発のミステリー。 二転三転する意外な展開に、最後の方はイッキ読み。 建築家ファビアンの4歳になる娘とベビーシッターは、ブエノスアイレスの地…

イアン・ランキン 他人の墓の中に立ち

なでしこ、準決勝でイングランドに2対1で勝つ。 あんな決まり方があるものかと驚く勝利。川澄選手の長めのパスからのオウンゴールだった。そういえば4年前の準決勝でも2得点をあげたのが川澄選手。特に2点目は意表をつく超ロングシュートだった。 やっぱり何…

蒙古襲来と「安保法制」

服部英雄『蒙古襲来』(山川出版社)を読む。 筆者は九州大学大学院比較社会文化研究院教授。 昔からなぜか「蒙古襲来」に興味があった。2度にわたって日本本土が外国の軍隊の侵略を受けて、それを撃退した事件であるが、勝利の要因が「神風」というのに昔か…

ピエール・ルメートル その女アレックス

話題になったピエール・ルメートル『その女アレックス』(橘明美訳、文春文庫)を読む。 原題は『ALEX』。 テンポの速い筆致、意外な展開に、ほとんど一気に読んでしまった。 おどろおどろしい話だが、不思議とサラッとしている。 このところ北欧のミステリ…