善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

物書同心居眠り紋蔵

佐藤雅美の「物書同心居眠り紋蔵」シリーズの最新作『御奉行の火照り』(講談社)。
巻末の一覧表をみると本作で14冊目となる。
彼の作品は時代考証──特に江戸の経済とか司法の仕組みなど──がしっかりしているので安心して読める。

今回読んでいて、紋蔵の生きた時代が幕末の天保のころのことだと初めて知る。
十一代将軍家斉の時代で、登場人物に側近で老中首座の水野出羽守忠成も出てくるが、紋蔵が勤める南町奉行の松平伊賀守というのはどうやら架空の人物のようだ。

本書に出てくる「天保3年」の南町奉行は史実では筒井和泉守政憲となっている。
この筒井和泉守という人は文政4年(1821年)から 天保12年(1841年)まで南町奉行職にあったというから相当長い期間(20年も)つとめていたことになる。
さまざまな事件、民政に携わり、名奉行といわれたらしいが、但馬出石藩のお家騒動(仙石騒動)に巻き込まれて町奉行を免職の上、左遷された役人が一時的に腰を落ち着ける閑職である西丸留守居役に任ぜられた。左遷の背後には水野忠邦(忠成の病没のあと不老中首座に)の暗躍があったという。

本書に登場する南町奉行の松平伊賀守も、忠成の将軍への進言によって奉行の職を解かれ、西丸留守居役に左遷されている。
筆者は筒井和泉守のエピソードを巧みに小説に取り入れたのだろうが、虚実入り混じっていて小説をおもしろくしている。