善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

朝井まかて『眩(くらら)』

このところ、いろいろ本を読んでも感想を書く気にはならなかったが、久しぶりに書きたくなった本を読んだ。
朝井まかて『眩(くらら)』(新潮社)

葛飾北斎の娘、お栄の人生を描いた小説。
お栄は生没年不明でナゾの多い女性絵師。号を応為(おうい)といって、「月下砧打美人図」「夜桜美人図」「三曲合奏図」「吉原格子先之図」などが知られるが、彼女の作とわかる作品は極めて少ないといわれる。

北斎とほぼ同時代に生きた人だから江戸時代も後期の人。
北斎には2人の息子と3人(一説には4人)の娘がいて、三女だったお栄は絵師の女房となるも夫の絵を鼻で笑って離縁され、出戻り後は父の北斎と起居をともにして作画を続ける。
お栄は特に美人画に優れ、北斎の肉筆美人画の代作をしたともいわれる。北斎は「美人画にかけては応為にはかなわない」とほめている。また、春画・枕絵の作者としても活動していたという。
著者の朝井まかてが『眩』を書こうと思い立ったのは、美術館でお栄の代表作「吉原格子先之図」を見て、江戸時代に描かれたとは思えないモダンな光と影の美に胸打たれたのがきっかけだったという。

たしかに、お栄は伝統的な日本画の手法に加えて西洋の陰影法を使い、ほの暗い夜の江戸を表現し、光と影の中に江戸の女性の美しさを描いた作家だったという。
このため「江戸のレンブラント」ともいわれている。
その代表が「吉原格子先之図」だろう。

「夜桜美人図」も意外な描き方がされていて、夜空の星はただ光っているだけでなく、等級によって5種類ぐらいに色が描き分けられている。

と、ここまで書いたが、実はお栄のホンモノの絵はまだ見たことがない。
本書を読んで、ますます「お栄の絵が見たい!」とい思いを募らせたのであった。