六本木のサントリー美術館で14日から始まった「ミネアポリス美術館 日本絵画の名品」展 (6月27日まで)を観る。
世界各地の約9万点を超える美術作品を収蔵しているミネアポリス美術館(Mia)。
1883年、アメリカ中西部ミネソタ州最大の都市ミネアポリスに市民の手で設立されたという。日本美術のコレクションが約9500点もあり、そのうちの室町時代から近世にいたる日本絵画の変遷をたどる展覧会。
水墨画、狩野派、やまと絵、琳派、浮世絵、文人画(南画)、奇想派、近代絵画といった日本絵画史の主要ジャンルを8章で紹介し、出品作品のうち約3分の1以上がMiaの所蔵品となったのち初めての里帰り展示だとか。
俵屋宗達や若冲、蕭白、浮世絵の春信、北斎、歌麿など、われわれ一般人でも知っている絵師の作品もあるが、多くが、恥ずかしながら今まで知らなかった絵師たちの作品。
今回、名前がわかっているだけでも50人以上の絵師が登場しているが、どれも名品ばかりで、日本美術を再発見した展覧会だった。
(ちなみに作品は撮影自由。ミネアポリス美術館自体がそうらしく、なるべく多くの人に見てほしいという配慮ゆえだろう)
まずは水墨画。雪村周継の「花鳥図屏風」。
雪舟は有名だが、日本では雪村はあまり知られていない。室町時代に東日本を中心に活躍した画僧だが、アメリカ人は雪村が好きらしくて雪舟よりもなじみがあるらしい(もちろん雪舟は数が少ないし値段が高すぎるということもあるだろうが)。どうやら日米では認知度にもギャップがあるようだが、雪村の絵を見ると、鳥たちが自由に羽ばたいていて独特の雰囲気がある。アメリカ人の目の高さに感服する。
芸愛の「栗に雀図」の部分。スズメ同士がけんかしてるところのようだ。
雪村は多少は知っていても、芸愛は初めて聞く名前。やはり室町時代の画家らしいが、生年も没年もわかってなくて、ナゾの画家なのだという。だれだかわからないけど作品は注目されていて、日本でも最近になって重要文化財になった作品もある。彼の作品がMiaにはちゃんとある!
山田道安「竜虎図屏風」
これは日本人もアメリカ人も好きそうな図柄だが、山田道安は芸愛同様知らない人が多いに違いない(かくいう私も)。戦国時代の武将で、水墨画や彫刻にも優れ、東大寺大仏の修復にも一役買った人物という。
狩野探幽「笛吹地蔵図」
狩野探幽は江戸時代初期の狩野派を代表する絵師。展示リストには制作年が1670年(寛文10年)とある。ということは72歳で亡くなる4年前の作品だ。
しかし、この絵について調査した石川県立美術館の学芸員の方によると、制作年は1646年ではないかという。加賀藩3代藩主・前田利常が、亡くなった息子の供養のため探幽に発注したといわれていて、前田家ゆかりの作品とされる。その後、前田家は、江戸から明治に変わって混乱期にあった1870年に売り立てを行い、ミネアポリス美術館に渡った経緯があるようだ。数奇な運命をたどった名画だ。
狩野山楽「四季耕作図襖」
田植え、稲刈り、田起こしなど四季の農作業の様子を描く「耕作図」は、元々農民が働く様子を皇帝に教える目的で描かれたのが始まりとされる。アンタたちのリッチな暮らしは農民の血と汗の上に成り立っているんだよということを教えるためだったのか。
絵の中に描かれたネコは作者の遊び心からか。
なかなか大胆な構図。
狩野山雪「雲門好日図」(江戸時代、17世紀)
手前で左右に広がっているのは山の壁。
その向こうに松に囲まれた建物があり、遠くに山が見える。
遠近感のある巧みな空間表現だ。
清原雪信「騎獅文殊図」(江戸時代、17世紀)
唐獅子の上に座している文殊菩薩。
アップで見ると何てやさしい文殊菩薩のお顔。
それもそのはず、作者は狩野派随一の女性絵師という。
父は探幽の高弟で、母は探幽の姪。自身も探幽に絵を学んだ。
もう一点は「飛天図」。
傑作だったのが伝・住吉如慶「きりぎりす絵巻」(江戸時代、17世紀)。
擬人化された虫たちが繰り広げる恋愛物語を描いた絵巻。
セミの右衛門督(うえもんのかみ)が玉虫姫と結ばれてめでたくわが子が誕生するという話。
玉虫姫が無事出産し、セミの赤ちゃんが産湯をつかってるところ。
わが子を抱いてご満悦の右衛門督。
昔の人もこういう絵巻物を見て心和んでいたんだろうなー。
作者不詳の「武蔵野図屏風」(江戸時代、17世紀)。
武蔵野に広がる茫漠としたススキ野を描いた作品。
武蔵野のはじっこに住んでる身としてはどこか懐かしい。
なんか、変わった踊り。
光源氏が言い寄ってるところか。
池田孤邨「三十六歌仙図屏風」(江戸時代、19世紀)
二曲一双の屏風に三十六歌仙が一堂に会しているが、いろんな表情がおもしろい。
酒井抱一「楸(きささげ)に鷦鷯(みそさざい)図」(部分、江戸時代、19世紀)
鈴木其一「三夕図」(江戸時代、19世紀)
展覧会場を上の階から望んだところ。
伊藤若冲「鶏図押絵貼屛風」(江戸時代、18世紀)
お尻を向けているニワトリもいたし、どれを見てもおもしろい。
同じく伊藤若冲「叭々鳥(ははちょう)図」
伊藤若冲「旭日老松図」
すばやい筆致で描かれた松の葉の鋭い表現。
「米斗翁八十五歳画」とあり、最晩年のころの作らしいが、実に生き生きとしている。
松井慶仲「虎図」(江戸時代、19世紀)
爪を光らせて何となくユーモラス。
怖いというより妖しげなトラ。
曾我蕭白「群鶴図屛風」(江戸時代、18世紀)
これもスゴイ作品。
蕭白の作風を「乱暴力」と評する人もいるらしいが、まさにそのとおりだと思う。
喜多川歌麿「『画本虫撰』より、虵(へび)・とかげ」(江戸時代、1784年(天明4年)ごろ)
作者不詳「舞妓図」(江戸時代、17世紀)
作者は知らねどなかなか魅力的な作品。
これも作者不詳「阿国歌舞伎図屏風」(江戸時代、17世紀)
そのころの風俗がよくわかる。
どこか岩佐又兵衛ふうと思ったら、やっぱり又兵衛作品なんかを真似して描いているみたい。
東洲斎写楽「二代目市川門之助の伊達与作」(江戸時代、1794年(寛政6年))
写楽の鮮烈なデビューを飾った28図の1つという。
月岡雪鼎「藤娘図」(江戸時代、18世紀)
これも大津絵の藤娘に似てるなーと思ったら、大津絵のパロディー形式をとりながら、優美な美人図に仕立てた作品という。
葛飾北斎「朝顔に蛙」(江戸時代、1833~4年(天保4~5年)ごろ)
カエルの部分だけクローズアップしたが、隠し絵みたいでよーく見ないとわからない。北斎のいたずら心。
どこか劇画チックなワシ。
日本画と洋画の狭間で苦闘した画家が狩野芳崖。リアルさを追求してこうなったか。
渡辺省亭「紫式部図」(明治時代、19~20世紀)
写真は作品の一部分だが、なかなかなまめかしい紫式部。
水墨画のように描かれたモノトーンの背景に、ピンクと赤の着物まとった人物が浮かび上がってくる。現代絵画への橋渡しをするような作品。
もっと評価されていい作品ではないか。
(追加)と思ったら、けさの新聞にナ、ナント、渡辺省亭展が東京芸術大学美術館で開催中との広告が載っていた。「次はこれだ! 知られざる日本美術の名匠」と宣伝文句にある。やっぱり再評価されているようだ。(会期は5月23日まで)
展覧会のあとは、近くの「中国名菜 孫」でランチ。
2時間近く立ちっぱなしだったので、生ビール。
ランチメニューを注文したら、どれもおいしく、ついでに紹興酒も1合ほど。
料理の数々(スープもあったが写真撮るの忘れた)。
2人で行ったので違うメニューをシェアして食べた。
きょう見た名画の数々を思い出しながら帰還。