善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

天国でまた会おう

ピエール・ルメートル『天国でまた会おう』(平岡敦訳、早川書房)。

著者は『その女アレックス』『悲しみのイレーヌ』などでこのところ日本でも評判の作家。
この2作のミステリーは、奇抜な発想でおもしろくは読めても作品のデキとしては「どうかな?」と首をひねった。一方の本作はミステリーとは違う青春・冒険小説で、暗いテーマなのに読後感は意外とさわやかだった。

第一次世界大戦後のフランスを舞台に、戦争で職も恋人も失った貧しい青年アルベールと、裕福な家庭で育ち画才に恵まれながらも戦争のため顔に大ケガを負って家族との縁を断ったエドゥアールの2人が、苦難にあえぎながらも互いに支えあい、ついには国家をあざ笑うような前代未聞の詐欺を企てる物語。

2013年にフランスで刊行され、今年10月に邦訳が出版された。

主人公の1人は砲撃にあってアゴのあたりが吹き飛んでしまい、何とか生還したものの人前に出ることを拒んで生きている。
そういえば先日観た山田洋次監督の『母と暮せば』でも、太平洋戦争で左手を失った復員関係の役所の係官とか、片足を失った小学校の先生が登場していた。
戦争は人間同士が殺し傷つけ合うものであり、庶民が得るのは不幸しかない。
その悲しみから生まれるのは反逆だ、と作者は言いたかったのかもしれない。