善福寺公園めぐり

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国谷裕子「キャスターという仕事」

国谷裕子「キャスターという仕事」(岩波新書)を読む。

国谷さんは1993年から2016年までの23年間にわたってNHK総合の「クローズアップ現代」のキャスターをつとめてきた人。
キャスターになる前の駆け出し時代も含め、テレビ報道に従事した彼女の30数年間が綴られている。

クローズアップ現代」はNHKの“良心”といっていい番組だった。それを牽引したのは数多くの報道スタッフだろうが、国谷さんの役割もとても大きかったように思う。

彼女は外部スタッフでフリーの立場でしかなかったが、彼女の頑張りがなければ「NHKの良心」として23年も続かなかったのではないか。
まさに国谷さんあっての「クローズアップ現代」であり、彼女が辞めた(というより辞めさせられた)あとに始まった「クローズアップ現代プラス」とかいったか、後継番組をたまに見るが、腑抜けのような番組になっている。

なぜ「クローズアップ現代」がおもしろかったのか、その理由が本書を読むとわかる。

なかでも大きいのは国谷さんのキャスターとしての個性だろう。
聞きたいことをしつこく聞く、ここに彼女の真骨頂があった。
「そうはいいましても」とか、「しかし一方で」という彼女の言葉を、いつも待ちながら番組を見ていたのを思い出す。

そして「クローズアップ現代」は終始、生放送にこだわった。これも成功の原因のひとつだと思う。
見る側としては、残りあと1分とか数十秒の時間がおもしろかった。
あともうちょっとで終りというときでも国谷さんは質問をやめない。ときどきゲストの目が泳ぐときがある。あれはたぶん「あと30秒」とかのカンペを見て「どうやって話をまとめようか、もう時間がないよ!」と逡巡しているときの切羽詰まった表情だろう。

そしてそうした緊張感の中でこそ、本当にいいたい意見が出てくるのではないかと思う。

本書の冒頭に出てくる「ハルバースタイムの警告」が気になった。
ディビッド・ハルバースタイムというニューヨークタイムズ紙の記者がいて、ベトナム戦争報道でピューリッツアー賞を受賞したこともある人だそうだが、1993年に来日して東京で講演したとき、次のように語ったという。

「問題は、テレビが私たちの知性を高め、私たちをより賢くするものなのか、それとも、派手なアクションを好み、娯楽に適しているというその特性ゆえに、真実を歪めてしまうものなのか、ということなのです」

本書ではこの問いかけ始まり、ハルバースタイムの話がもうちょっと続くが、20年前に彼が投げかけた問いは、今も、いや今こそテレビが答えるべき問題となっていると思う。