善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

ピエール・ルメートル その女アレックス

話題になったピエール・ルメートル『その女アレックス』(橘明美訳、文春文庫)を読む。
原題は『ALEX』。

テンポの速い筆致、意外な展開に、ほとんど一気に読んでしまった。
おどろおどろしい話だが、不思議とサラッとしている。
このところ北欧のミステリーをよく読むが、北欧ミステリーにある重苦しさというか、雲が低く垂れ込めているような陰鬱さはない。
フランスの作家によるフランスを舞台とした話だが、国民性の違いがあるのだろうか。

犯人を追い詰める側の主人公とその回りの人物描写がおもしろかった。
パリ警視庁の犯罪捜査部班長カミーユ(警部)はハゲで低身長(身長145㎝)で、すぐキレやすい。部下のルイは金持ち(金利だけで生きていけるほど)で道楽で刑事になった感じ。一方、もう一人の部下のアルマンは、どケチでズーズーしくて、たとえば事情聴取に行った店でその店の商品をあれこれくすねるのも平気な男。

この3人が出てきて日本のあるマンガを思い出した。そう、秋本治の『こちら葛飾区亀有公園前派出所』に登場するメンメンだ。どケチでズーズーしいアルマンは両津勘吉だし、金持ちの警官は中川圭一、すぐにキレやすい警部はどこか両津の上司の大原大次郎(こちらは巡査部長だが)に似ている。

フランスでも日本でも、考えることは似ているのか。

それにしてもピエール・ルメートルという作者はなかなかの書き手だ。日本ではほかに『死のドレスを花婿に』というのが出版されていて、最近、文庫版(文春文庫)になっているというが、未読。

作者の謝辞で、さすがフランスの作家らしく、これまで多くを学んで感謝する作家の一人としてルイ・アラゴンをあげていた。
若いころアラゴンのファンだった者としてはうれしい限りで、次の作品を読みたくなった。