善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

八重さんの山、八重山に登る

ゴールデンウィーク後半初日で憲法記念日の5月3日、山梨県上野原市八重山(標高530m)にハイキング。

朝から快晴で、山頂からは富士山も見えた。

 

なぜこの山に登ったか、この山にまつわる物語に感銘を受けたからだ。

最初、八重山というので「なぜ八重山なのか?」と興味を持った。ひょっとして女性の名前からとったのか?と思ったら、その通りだったが、それだけではなかった。

この山は昭和の初め、地元で生まれ育った水越八重さんが、上野原のまちと上野原小学校にお世話になった恩返しにと、ご自分が所有していた山を寄付し、それにちなんで「八重山」と名づけられたのだ。

八重さんは明治19年1886年)生まれ。がんを患って昭和4年(1929年)44歳で亡くなってしまったが、がんになって自分の命がもう長くないことを悟った昭和4年8月3日、身内の人を枕元に呼んで、「お世話になった上野原や上野原小学校のために30 ヘクタールの山を寄付したい」と言い残した。そして翌4日の朝、息を引き取ったという。

遺言の通り山は市に寄付され、今では八重山は上野原小学校の学校林として、また、市民に愛される山として、八重さんの想いを後世に伝え続けている。

 

9時17分発の甲府行き普通列車に乗るため高尾駅に到着したのは出発の10分ほど前。

高尾駅始発だし、今どき電車で山登りに行く人も少ないだろうから、楽勝で座れるだろうとホームに行くと、とんでもなかった。

4人がけのボックスシートの座席はほぼ埋まっていて、ポツンポツンと空きがあるのみ。

さすがゴールデンウィークだけに、大月、甲府方面に行く観光客がワンサカ押しかけたようだ。

何とか座れたが、次々と高尾着の電車が到着してお客が乗ってきて、出発のころには満員となってギューギュー詰め状態。早めに来て座れてよかったー。

 

といっても座っていたのは16分間で、3駅目の上野原着は9時33分。

上野原駅を利用したのはかなり昔の記憶があるが、改修されたのだろう、立派な駅に変身していて、バス乗り場もかつては北口だったが南口に変わっていた。

しかも南口のバス乗り場は改札口からかなり下の方にあって、階段を降りていって早足で行って2、3分はかかる。

エレベーターがあったが、バス乗り場は1階にあり、改札階は5階だった。

みすぼらしかった駅舎のころのほうが、駅を降りてバス停がすぐそばにあったので便利だったなーと懐かしく思ったのだった。

上野原駅9時47分発の富士急バスで光電製作所前行きのバスに乗車。座席は登山客を中心にほぼ埋まっていたが、昔のように座れないことはない。

10時01分、大堀で下車。ここから歩きが始まるが、一緒にここで降りて八重山に登ろうという人は2グループぐらいしかいなかった。

 

住宅街を10分ほど歩いて、駐車場のあたりから山道に入る。

 

ツツジがあちこちで咲いていて、アゲハがとまっていた。

 

大きめのバッタを発見。

馬づらをしたイナゴかトノサマバッタだろうか。

毎日散歩している都会の善福寺公園では見ない種だ。

 

山道はしっかりと整備がされていて、歩きやすい。

ところどころに植物の説明札が立てられていて、とても助かる。

ジュウニヒトエ十二単)。

花が幾重にも重なって咲くので、昔の女官の衣裳である十二単に見立てたのだとか。

 

ギンラン(銀蘭)が咲いていた。

善福寺公園では今年はまだ咲いているのを見てないので、今年初のギンラン。

 

その近くにはキンラン(金蘭)も咲いていた。

 

「ここから先は上野原小学校の学校林です」との看板。

 

途中、「脇道を50mぐらいいくと水車があります」というので寄り道すると、たしかに水車。簡単なつくりだがたしかに水車。今はお休み中らしい。

 

ツツジの花に見たことのない虫がとまって蜜を吸っていた。

背中にコブがある不思議な形をしたハチか?アブか?

帰ってから調べたら、セダカコガシラアブとわかった。

ツツジの花蜜が好きみたいで、小さくて、特徴的な形をしている。

胸部が大きく盛り上がっているところから「背高」。頭が小さいので「小頭」。

花の蜜を吸うためのストロー状の口は長く、お尻のあたりまで伸びているというが、葉っぱの上にとまったところを見ると、たしかに長い。

こんな虫、初めてみた。世界(虫界)は広い。

 

不思議な名前の花も発見。

オトコヨウゾメという名前だが漢字で書くと「男莢迷」。

莢迷とはガマズミのことで、頭に「男」とつくのは、秋には光沢のある赤い実をつけるがまずくて食べられない、染料として使えないの意味だとか。

植物界ではイヌだけでなく男も「役立たず」なのか。なるほど、そうかもしれない。

日本固有種だという。

 

青色の美しい花は何という花?

これも帰ってから調べたら、フデリンドウ(筆竜胆)。

野山の日当たりのよいところに生える2年草。

とてもよく似た花にハルリンドウがあり、区別がつきにくいという。

ただし、フデリンドウは1つの茎にたくさんの花をつけるが、ハルリンドウは1つの茎に1つだけ。それにハルリンドウは湿地を好むというから、きょう見たのはフデリンドウのようだ。

 

山道に入って歩き出してから約50分で展望台に到着。

山々が連なる西の方に富士山が見える。

まだ5月のはじめ。山頂付近は雪をいただいている。

富士山をながめながらお弁当を広げて昼食。

 

水越八重さんの記念碑があった。

 

ふもとから山の中まで、たえずホーホケキョのウグイスの鳴き声が聞こえていたが、エナガの姿もあった。

八重山で出会ったエナガ

チョウもたくさん飛んでいる。

善福寺公園でもよく見るヒメジャノメ。

 

展望台から10分ほどで八重山山頂。

ここからも富士山がくっきり見える。

 

さらに歩いて、いったん山を下って再び登ると、八重山よりちょっとだけ高い能岳(542・7m)。

かなり翅がボロボロのチョウがジッとしていた。

ヒオドシチョウ?それともエルタテハ?あるいはシータテハ?

 

能岳から下山開始。

途中、馬頭観音を祀る祠があった。

馬頭観音は頭上に馬頭をいただいていて、民間信仰では馬の守り神ともいわれている。

山登りに出かけると山道でよく馬頭観音と出会うが、おそらくこのあたりもかつては峠道として人や馬が通っていたのだろう。あるいは近くに牧場があって馬の飼育が行われていたのかもしれない。それで地元の人々に馬頭観音が人気だったのだろうか。

近づいてよく見ると、何とも柔和なお顔をしている。

馬頭観音密教においては悪人や敵を降参させる修法の本尊というので、多くの場合、憤怒の形相(憤怒相)をしている。

観音さまというと、たいがいがおだやかな表情をしているものだが、馬頭観音は観音といいながら目尻をつり上げ、怒髪天を衝き、牙を剥き出しているのが一般的。しかし、上野原の馬頭観音はおだやかなお顔の柔和相で、全国的にも数少ない例なんだそうだ。

もしかしたら元の山の持ち主、水越八重さんの威徳を偲んでいるのかもしれない。

やさしいお顔のあの馬頭観音は、水越八重さんなのでは?

 

能岳から下って50分ほどでふもとの集落に到着。

終点の光電製作所前13時42分発のバスで上野原駅到着は13時59分。

上野原駅14時07分発の中央特快で乗り換えなしの三鷹到着は14時59分。

各駅停車に乗り換えて無事帰宅。

見たことのない花や虫と出会えて、新しい発見の楽しい一日だった。