善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう」と大吟醸

山本巧次『大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう』(宝島社文庫)を読む。

2015年『このミステリーがすごい! 』大賞の最終選考までいったが受賞は逃し、このままボツにするのはもったいないというので「隠し玉」とかいう賞?をもらった作品。

文政の江戸を舞台に、両国橋の近くに住む捕り物好きの謎めいた美女おゆうが、懇意な間柄の八丁堀同心・鵜飼伝三郎とともに薬種問屋の若旦那殺しの一件を追ううち、闇薬絡みの事件の裏に潜む陰謀を突きとめる、という話だが、実はおゆうの正体は現代に生きるミステリマニアの元OL・関口優佳。祖母から受け継いだ家の納戸にあるタイムトンネルを通って200年の時を隔てて二重生活を送っている、という意表をつく設定。

科学捜査研究所に勤める友人を頼りに、現代科学を駆使し謎を解いていくが、いかにして江戸の人間に真実を伝えるのか、そこのあたりもおもしろい。
ライトノベルふうなのでアッという間に読めて、気分転換にはもってこいの本だった。

ただ一点だけ、さすがにこれはありえない(いくらタイムトンネルがホントにあったとしても)と思ったのが、八丁堀同心・鵜飼伝三郎にウマイ酒を飲まそうと、タイムマシンで現代に戻って「日本橋の酒屋で一番いいもの(日本酒)を見繕ってきた」というくだり。

「一番いいもの」ということになれば大吟醸だろうが、精米歩合50%以下の酒だ。精米歩合とは玄米を精米するときに表層部をどれだけ削ったかの割合のことで、食用の白米なら90%ぐらいしか削らないところを、酒のうまみを引き出すため極限まで削ってできるのが大吟醸。しかし、江戸時代にそれだけ精米しようとする考えも、技術もあるはずがない。

当時すでに澄んだ酒は出回っていただろうが、今の酒とはまるで違った味だっただろう。
江戸時代の横丁の話を落語にした「青菜」に、上方から下ってきたという「柳影」という酒を植木屋さんがうまそうに飲む場面があるが、あの「柳影」とは味醂のことである。
味醂を飲んで「うめえな~」といっている人に大吟醸を飲ませたらどうなるか。きっとびっくりしてひっくり返ってしまうだろう。
といっても八丁堀同心の鵜飼伝三郎という男もタダモノじゃないみたいだが・・・。

大吟醸といえば、きのう飲んだのが山形は酒田の酒「上喜元」の「雄町 純米大吟醸」。
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酒造好適米「雄町」を50%精米し、熊本県酒造研究所の9号酵母を使って醸した酒。
長年の「上喜元」ファンとしては堪えられない味だった。