仕事で大阪へ。
ついでに1泊して(何しろ今は、飛行機代・宿泊代をセットするとGoToトラベルを利用しなくったってバカ安なのだ)、まだ行ったことのない国立国際美術館、国宝の茶碗「油滴天目」を展示している大阪市立東洋陶磁美術館をめぐり、大阪の味も楽しむことにする。
行きの羽田空港は閑散。
それでも羽田-大阪(伊丹)便は本数を大幅削減している影響もあってか行きも帰りも満席だった。
ただ、この路線の難点は、飛んでる時間が実質30~40分ぐらいしかないこと。したがって機内オーディオ番組の「落語名人会」を最後まで聴けたことがない。
空港からモノレールに乗り乗換駅の蛍池駅前でいったん下車。
駅前の「うどんの丸十」で昼食。
黒毛和牛使用の肉うどん。
出汁の香りがいい。
もう1軒、駅のすぐそばに「マルヨシ製麺所」といううどん屋があってこちらは行列ができていたが、ここの味も気になった。
ナント、地下につくられた美術館だった。
この美術館はもともと、1970年の大阪万博のときに開設された万博美術館を発展させて国立国際美術館として77年に吹田市の万博記念公園内にオープン。その後、30余年がたって老朽化を機に2004年現在地に移転してリニューアルオープンした。
地下3階(一部地上1階)の完全地下型の美術館で、セザンヌ、ピカソなど一部の作家のいくつかの作品以外は、戦後の現代美術作品を数多く収集・展示する美術館だ。
今回見たのは、ベトナム生まれでデンマーク育ちのアーティスト、ヤン・ヴォー(1975~)の日本の美術館では初となる大規模個展「ヤン・ヴォー ーォヴ・ンヤ」と、「越境する線描」と題するコレクション展。
ヤン・ヴォーは1975年生まれというから、ちょうどサイゴンが陥落してアメリカ軍がベトナムから撤退、ベトナムが統一された年に生まれたようだ。その後、4歳のときに父親の手製のボートに乗って家族とともにベトナムから逃れ、海上でデンマークの船に救助され難民キャンプを経てデンマークに移住している。
ということは彼の父親は米軍寄りの立場にいて社会主義体制から逃げようと国外脱出したのか。そういえば、ベトナム戦争当時アメリカの国防長官だったマクナマラの息子と親しかったようで、マクナマラの遺品が数多く展示されてあった。
ケネディ大統領やジャクリーン夫人からマクナマラに宛てた署名入りの書簡だとか、ケネディ政権の閣議室の椅子の一部、大統領の署名用ペン先、ニクソンおよびフォード政権時の大統領補佐官で国務長官もつとめたキッシンジャーがマスコミ関係者に送った何通かの書簡(ただし、この間のコンサートはよかった、というような短いもの)もあったが、とにかく見て回るのに苦労する展覧会だった。
何しろ作品一点一点には何の説明もキャプションもなく、わかりにくい展示マップとにらめっこしながら恐る恐る進んでいかなければならなかった。
むしろ作品として印象に残ったのは、ヴォーと親しかったというイサム・ノグチの、和紙と竹ひごでつくった「あかり」という作品だった。
「越境する線描」は線描にこだわった展覧会。
学芸員が書いたであろう説明文がなかなかコッていた。
たとえば「グラフィック」について、次のようなことが書かれてあった。
グラフィックデザインという言葉、またリトグラフやフォトグラフといった表現手段ゆえ、グラフィックはしばしば複製技術を想起させるが、実はそうではない。グラフィックの語源であるグラフォーというギリシャ語には「彫り刻み跡を残す」といった意味があり、グラフィックの根底にあるのは「痕跡」という概念なんである。
なるほど、「線描」とは「痕跡」なのかもしれない。
高松次郎(1936~1998年)「《影の母子像》のための習作」(1988年)
紙に描かれた鉛筆画。
高松次郎は実体のない影のみを描いた「影」シリーズが有名。ほかにも、石や木などの自然物をわずかに手を加えただけの作品、遠近法を逆にした作品などが知られる。
母子の影が描かれているが、母子はそこにいるのかいないのか、絵を見ながら考えてしまう。
伊藤存(1971年~)「森」(2006年)
布に刺繍して森を描いている。
金氏徹平(1978年~)「Model of Something」(2010年)
プラスチック製品やキャラクター人形、金属、木材、雑誌の切り抜き、シールなどの日用品に手を加えたり、接合、変形、組み合わせたりすることで見たこともないのに既知感のある奇妙な世界へ誘う作品が彼の特徴という。
そういえば今年の「ヨコハマトリエンナーレ」でも、キャラクター人形に手を加えたマンガチックな作品があった。
今村源(1957年~)「1998‐9 ふたつシダ」(1998年)
クモの網のような針金アート。よーく見るとたしかにシダの葉っぱが・・・。
会場の外にも高松次郎の影の絵があった。ホンモノの生きている影のようで、とても描いたもののようには見えない。
夜はホテルに近い淀屋橋近くの「和食Labo 新た」へ。
事前に予約しておいた店。
コロナの影響で、アラカルトはなくコース料理のみで酒は飲み放題だとか。
酒はビールのあと日本酒、ワイン。
日本酒は高知の「文佳人 辛口純米」、山形の「上喜元 純米吟醸 Snow Beauty 雪女神」
「上喜元」は愛飲している日本酒だが、この酒は初めて。
なんでも山形県が開発した大吟醸用の酒米「雪女神」を使用していて、精米歩合60%(大吟醸だと50%以下だが)。
やさしい味わいだった。
料理はまずクジラ鹿の子、ハマグリをすりつぶしたスープ。それにアサツキ。
カツオの藁焼き。煙で燻した感じがうまみを増す。
シマアジの昆布締め。
イチジク、小松菜、牛すじの三点盛り。
サワラの揚げたのとゴルゴンゾーラ、芽ネギを食パンに挟んでサンドイッチ風に食べる。これが絶品の味!
高坂鶏。皮パリでおいしい。
宮崎牛と青葱。
目の前でしゃぶしゃぶ風にしてくれる。
ジュンサイ、トマト、絹モズク。
〆は秋ジャケ、アサリ ムール貝の炊き込みご飯。
デザートはチーズプリン。
料理長さんが店の外まで送ってくれた。大阪人の心配りがうれしい。
大満足で近くのホテルまで夜風に吹かれてブラブラ歩きで帰る。
(下につづく)