仕事で大阪へ。せっかくだからと1泊して2日目は美術館と博物館めぐり。
1日目の夜は、何度か行ってる道頓堀の近く島之内の「一陽」で食事とお酒。
予約が取りにくいといわれる人気の店だが、運よくカウンターに座れた。
生ビールのあとは日本酒を何本か。
酒器もシャレている。
料理はまず、お通し。
インカのめざめ(じゃがいも)とベニズワイガニの酢の物。
お造り盛り合わせが絶品の味。
ミンククジラやトラフグテッサは大阪らしい。ほかに明石のタイ、気仙沼のカツオ、マグロ、甘海老のウニ醤油漬など。
合鴨と海老芋の治部煮。
セイコガニの味噌焼き。
胡麻のサラダ葉巻き。
ミョウガと生ハムの天ぷら。
おいしい酒と料理でシアワセな大阪の夜。
バスで行くことにし、ホテルから地下鉄なんば駅前のバス停まで歩く。
途中の黒門市場は時間が早いからか、まだ開いている店が少ない。
バス停の目の前に、まるでお城のようなビル。
2019年オープンの「ホテルロイヤルクラシック大阪」。
もともとこの場所には大阪新歌舞伎座があり、移転により取り壊された跡地にできたホテルだが、ファサードは元の新歌舞伎座の意匠をそのまま残そうと、東京の歌舞伎座の設計も行った隈研吾設計により地下1階・地上19階の都市型ホテルに生まれ変わった。
そういえば東京の歌舞伎座のファサードもお城みたいな形をしているが、お城の天守閣でよく用いられる唐破風と呼ばれるものだそうだ。
国立国際美術館は世界的にも珍しい完全地下型の美術館。
この下に美術館がある。
ちょうどドイツのアーティスト、ヨーゼフ・ボイス(1921~86年)と、彼の弟子のブリンキー・パレルモ(1943~77年)の二人展「ボイス+パレルモ」が開催中だった。
ボイスは、脂肪やフェルトを素材とした彫刻作品のほか、アクション、対話集会、政治や環境問題など、多岐にわたる活動を展開したアーティストでありパフォーマー。
なぜ脂肪なのか。
彼は第二次世界大戦でドイツ空軍の急降下爆撃機に通信兵として搭乗し、東部戦線で戦ったが、クリミア半島上空でソ連軍に撃墜され、墜落した飛行機から遊牧民のタタール人に助けられ、傷口に脂肪を塗られフェルトにくるまれたおかげで意識不明から2日後に蘇生したという。
つまり脂肪に助けられたというわけで、脂肪は冷たかったり常温だと固まっているが、熱すれば溶け出す。そうやって変化するものに自身の変化や社会の変化を重ね合わせたのか、彼の作品には脂肪を使ったものが多い。
また、ミツバチもたびたび作品の中に登場しているが、ボイスによればミツバチは熱を発して蜜蝋(脂肪が含まれている)から幾何学的な巣をつくる。熱は永続的・潜在的なエネルギーであり、社会の変化をもたらすものにほかならないという。
一方、パレルモは1977年に33歳という若さで亡くなっているが、なかなかすぐれた抽象作品を残している。
小さくて変な形のカンヴァスに、長すぎる木枠。カンヴァスと木枠という絵画の基本となる素材自体を一度壊して再構成し、絵画とは何かを問い直しているのだろうか。
既製品の布を縫い合わせた「布絵画」。
単に緑と青に色分けしているだけではない、深い味わいがあって、黒一色に塗りつぶされているのになぜか心が落ち着くマーク・ロスコの絵に似ている。
(写真はいずれもパンフより)
昼は、美術館近くの“自然派”っぽいレストランでフォー。
サラダつき。
午後は地下鉄から大阪モノレールに乗り換えて万博記念公園駅下車。
公園に入ってすぐのところに立っている太陽の塔。
2年ほど前には太陽の塔の内部の見学をした。
国立民族学博物館に行くのもそのとき以来か。
入口近くにあったカメルーンの王の仮面「アトゥア・コム」。
王宮の儀礼で用いられるもので、「アトゥア・コム」とは「仮面」を意味するという。
仮面といっても人の顔の前につけるのではなく、この仮面を頭に乗せて、斜めに傾けて踊りを披露する。仮面には王の祖先の力が宿るとされているという。
頭のてっぺんからは3匹のヘビが下がっていて(右端のは欠けている)、ヘビには霊力があったのだろうか。
その隣にあったのはガーナの棺桶。何とエビの形をしている。
死者の生前の職業や特技にちなんでつくられるのだそうで、中の死者はエビ獲り名人か、エビが好きだったのか?
開催中の企画展、「躍動するインド世界の布」展を観る。
インドを中心とする南アジア世界において、布は時と場所、用途に応じて、あるいは宗教的規範や社会的慣習によって用いられる形や色、文様が異なり、その扱われ方も場面ごとに明確に定められているんだとか。
インドの布というと、サリーのような一枚布を使って体にまとう着衣文化がよく知られるか、ほかにも、衣装としてだけではなく、人生儀礼における贈与や神々への奉納、社会運動でのシンボルといった多様な役割を担っていて、人々は場面に応じて多種多様な布の中から目的や機能に適したものを選び、使い分けているのだという。
インド世界の昔と今を、布をキーワードに迫っていくのが本展。
布をまとうといえば、その理由は外界から身を守ったり、身を飾ると考えるのが普通だが、本展の主催者によると、それ以上の意味があるのだという。
人は時間や空間を一定のルールのもとに区切り、つなぐことで自分たちの世界を秩序づけてきたが、その区切ったりつないだりする「目印」のひとつが布だという。
たとえば婚礼衣裳。人の一生の中でも大きなひとつの区切りであり、かつ人々との関係を更新・確認するためのものでもあるという。
空間においても同様で、居住地の物理的境界、聖と俗との境界などにも区切りがあり、それを布で示している場合がある。イスラム社会におけるヴェールも、自分と他人とを空間的に区切る役割を持っているという。
美しい模様の布の数々。
今回、特に注目したのがインド北西部のラジャスタン(ラージャスターン)州で踊られるカルベリア(カールベーリヤー)ダンスの衣裳だった。
以前、流浪の民として知られるロマ(ジプシー)の歴史をセリフなしの音楽とダンスのみで描いた「ラッチョ・ドローム」というミュージック・ムービーを観たことがあって、そこに登場したのがカルベリアダンスだった。
インド・ラジャスタン地方の砂漠を子どもが歌いながら歩いているところから映画は始まる。その砂漠こそ、1000年前にロマたちの放浪がはじまった土地であり、エジプト、トルコ、ヨーロッパへとロマたちの足跡を辿る旅が始まる。
ロマの原点といえるのが、ラジャスタンに住むヘビ遣い族のコミュニティで踊られてる即興の踊りカルベリアダンスであり、ベリーダンスやフラメンコにも影響を与えたという。
そのカルベリアダンスの衣裳には変遷があり、本展の説明によると、昔と違って現在のカルベリアダンスの衣裳は“ヘビに擬態した衣裳”なのだという。
カルベリアの人々はもともとヘビの見世物をしてきた遊芸民だった。ところが1972年、インド野生生物保護法が制定され、ヘビの見世物は禁じられることになった。そこで、ヘビに代わる形で女性たちが舞台で踊りを見せるようになり、衣裳も変わっていった。
それまでももちろんカルベリアダンスはあったが、女性はヴェールで顔を覆い、衣裳は日常着で踊っていた。
本物のヘビが使えなくなるとダンサー自身がヘビに擬態して踊るようになって、衣裳にも踊りにも変遷が見られるようになっていったという。
カルベリアの踊りの最大の見せ場は、体を軸に全身を大きく360度回転させる旋回だが、そのときに黒くきらめきながら翻るガーグラーと呼ばれる巻きスカートは、とぐろを巻くヘビおように女性たちは見せる。
この踊りに使うガーグラーは、長いもので10mもの布を使う。ガーグラーの丈やヒダの多さは、旋回時に足を露出させない工夫でもあるという。
展覧会を観たあと博物館の中をひと巡り。
インド・ラジャスタン州のナーグデーヴター神。
八岐大蛇(やまたのおろち)ならぬ、五岐大蛇?
やっぱりラジャスタン州ではヘビは神様だった。
夕刻発のANAで東京へ。
夜は西荻窪駅近くのワインと料理のおいしい店「山下食堂」で。
ワインはスペイン・バスク地方の「イルエラ・クリアンサ(Iruela Crianza) 2016」をボトルで。
ワイナリーはロバルト・パスカル・ブランコ。ブドウ品種はテンプラリーニョ、それにグラシアーノ、グルナッシュ。
料理はまず、アジと茸のマリネ(ハーブとサワークリーム)。
焼き野菜のサラダ(ゴルゴンゾーラソース)。
アボカドのフリット(クミンマヨネーズ)。
鴨のロースト(柿のソース)。
イケメンのシェフが一人でがんばってるので応援したくなるし、どれもおいしくて、また行きたくなるお店だ。
西荻窪駅の改札前のスーパー「KINOKUNUYA」の前を通ったら、23日まで開催中の善福寺公園上池を中心とした野外アート展「トロールの森」の作品のひとつ、桃井第四小の子どもたちがつくった、ひとがたのトロールが展示されていて、クルクルと回転しながら遊んでるようだった。