善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

井上都 ごはんの時間

井上都『ごはんの時間 井上ひさしがいた風景』(新潮社)

亡くなった作家・井上ひさしの長女である著者が父といた日々を振り返りながら綴ったエッセイ集。
2014年4月から16年3月までに2年間、毎日新聞夕刊に毎週掲載したコラムをまとめたものという。

父と母が離婚してそれぞれに再婚。彼女は父母の離婚後しばらくの間、井上作品を専門に上演する劇団「こまつ座」の代表を努めていたが、2010年に同座を離れている。その陰には、父との間に起こった大きな諍いがあり、和解できないまま父の死を迎えたのだという。
彼女にはパートナーの男性がいて、高校生の男の子もいるが、男性は事故で亡くなり、今はお子さんと二人暮らし。家計を支えるためパートで働いているという。
有名作家の娘さんであっても、いろいろ苦労されているようだ。
苦労する中での日々の思いが綴られているが、温かい筆致なので“ほっこり”とした気分になれた。

印象に残ったのは、ごはんとは関係ないが父ひさし氏の次の言葉。

「切符を買うところから観劇は始まっているのだよ」

たしかに、歌舞伎や文楽が好きな本ブログの筆者は、切符を買ったらサテどんな芝居だろうとあらすじを調べたり、文楽の場合はできるだけ台本(床本という)を読むようにして、事前勉強をする。
終演は何時だから、帰りには近くの飲み屋でイッパイやろうかとか、そんな連想が続く。
たしかに観劇とは当日の舞台だけにあらず。それまでのワクワクする日々も含まれているのだ。