善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

『ブエノスアイレスに消えた』とアルメニア料理

グスタボ・マラホビッチ『ブエノスアイレスに消えた』(宮崎真紀訳、ハヤカワポケミス)を読む。
アルゼンチン発のミステリー。
二転三転する意外な展開に、最後の方はイッキ読み。

建築家ファビアンの4歳になる娘とベビーシッターは、ブエノスアイレスの地下鉄で突如姿を消す。警察の捜査は遅々として進まず、その間に妻は自殺し、捜索に協力してくれた探偵は殺される。
娘の失踪から9年がたったある日、物語は急展開する。

小説の最初の方で、主人公とその妻がブエノスアイレスにあるアルメニア料理の店に行く場面がある。
つい最近、アルメニアを旅行したばかりなので懐かしくなる。
すると2人はアルメニア名物の「ラヴァッシュ」(ごく薄く焼いたパン)も食べただろうか、しょっぱいチーズも食べただろうか、と気になる。
小説ではオードブルの「ひき肉をブドウの葉で包んだ料理」が登場する。これもアルメニアの名物料理のひとつで、旅行でも食べた。
だが小説では「サマル」という料理名になっているが、旅行中に食べたのは「トルマ」と紹介された。ブドウの葉で巻いたものは「トルマ」で、キャベツの葉で巻いたのは「サルマ」とか、呼び方はいろいろあるようで、地域によっても違うかもしれない。

小説ではブエノスアイレスの街の様子が詳しく描かれ、行ってみたい気持ちにさせる。

最後の方で格闘シーンが出てきて、あわや主人公のファビアンが殺されかけたとき、彼の命を救ったのは日ごろアマチュアのバレーボールチームで鍛えた瞬発力のおかげだった。
アルゼンチンではバレーボールがかつての日本のように盛んなのだろう。

もうひとつ興味深かったのが、事件解決のカギを握るものとして芸術作品に日本の「唐金(からかね)」が使われている話が出てくること。
唐金とはブロンズや青銅の別称で、銅、錫、亜鉛、鉛などの合金のこと。日本では「中国から伝わった金属」ということでこう呼ばれた。ブロンズや青銅はヨーロッパにもあっただろうが、古代の唐金には、鉛が貴重品だったために砒素が用いられていたという。古代の仏像製作に用いられ、奈良の大仏にも砒素が使われている。
砒素とアンチモンを混ぜると細工がしやすくなり、手の込んだものがつくれるのだそうだ。
より美を深く追及したい気持ちが、芸術家を砒素入りの「唐金」に向かわせるのだろうか。