善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

三浦綾子「母」

三浦綾子「母」(角川文庫)を読む。
蟹工船」の作者として知られるプロレタリア作家・小林多喜二の母、小林セキさんの物語だ。

先日、三浦綾子原作の映画「母―小林多喜二の母の物語」が寺島しのぶ主演でクランクインしたとのニュースを知った。
監督は日本の女性映画監督最高齢で84歳の山田火砂子監督。

クリスチャンの三浦綾子小林多喜二の母を主人公にした小説を書いたというのが意外だったので、手にする。

物語は小林セキの語り口調で進んでいく。
読み出したら涙が止まらなくなる。
母の愛の深さを知る。
決して電車の中や人前では読めない本。一人っきりで読むのを勧める。

小説を読むと、多喜二が生まれ育った小林家は貧しかったけれどもとても明るくてやさしさに満ちた家庭だったことがわかる。
多喜二自身もユーモアに満ちた人だった。
そんな家庭で育ったからこそ、成長してからも正義を正義と思い、その信念を曲げずに人生を貫くことができたのではなかったか。
特高警察の虐殺により、わずか29年の人生だったが・・・。

小説の本筋とは関係ないが、なるほどなと思ったカ所があったので記しておく。

主人公のセキは小さいころから神さま仏さまにはよく手を合わせた人間だったという。
それは彼女の母親の影響で、母親はよくこう言って聞かせたという。

「おセキ、日本にはな、やおよろずの神さまがおいでになってな。便所には便所の神さま、かまどにはかまどの神さま、山には山の神さま、海には海の神さま、どっち向いたって神さまばかりだ。粗相(そそう)のないように、鳥居の前では必ず手を合わせたり、お辞儀をするもんだ」

日本人は人に会うとすぐに頭を下げてしまうが、その理由がわかった気がした。