善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

ジェフリー・ディーヴァー『煽動者』

ジェフリー・ディーヴァー『煽動者』(池田真紀子訳・文藝春秋)を読む。

キネシクス(ボディランゲージを分析する科学という)を駆使して犯人に迫るキャサリン・ダンス捜査官シリーズの4作目。

“人間嘘発見器”の異名をとる尋問のエキスパート、キャサリン・ダンス捜査官が「無実だ」と太鼓判を押した男が、実は麻薬組織の殺し屋だとする情報が入る。殺し屋を取り逃がしたとうのでダンスは麻薬組織合同捜査班から外され、民間のトラブルを担当する民事部に異動させられるハメに。
民事の事故処理というので派遣されたのは、満員のコンサート会場で観客がパニックを起こして将棋倒しとなり、多数の死傷者が出た一件だった。
だが、現場に不可解なことが多すぎることに気づいたダンスは、やがてパニックを凶器に無差別殺人を繰り返す卑劣な犯人を追う。

読み始めて、尋問の天才のはずがいとも簡単に犯人を取り逃がす設定がちょっと安易だったが、その後の展開を考えるとまあ許してやろうか。

ジェフリー・ディーヴァーの作品だけに安心して読める。
物語の終わり方も“大人”の終わり方で、怖くてゾッとする事件の連続なのに読後はさわやか。

やけに日本の話が出てくる。
ジェフリー・ディーヴァーは日本びいき、あるいは日本通なんだろうか。
第二次世界大戦中の日系人の強制収容の話が出てくる。
1942年、当時のルーズベルト大統領は軍管理地域からいかなる者であれ立ち退かせる権限を軍に与える命令を出す。この軍管理地域に指定された範囲はどこかというと、カリフォルニア州全域とオレゴン、ワシントン、アリゾナ各州のほぼ全域だったという。そして、立ち退かされたのはだれだったかというと、日系人だった。
「12万近くの日系人が家を追われ、強制収容所に送り込まれ、その6割以上がれっきとしたアメリカ市民だった。どんなきれいないいかたをしようと、要は民族虐殺(ポグロム)だ」と登場人物に言わせている。

邦題は「煽動者」だが、原題は「SOLITUDE CREEK」。
犯人による最初のパニック犯行の現場となったナイトクラブの名前だが、そばを流れる川の名前からとられていて、「孤独の川」という意味だそうだ。

「ソリチュード(孤独)」というのが今回の物語のテーマかもしれない。