イタリア・ヴェネトの赤ワイン「ヴァルポリチェッラ(VALPOLICELLA)2023」
ワイナリーは16世紀からワインづくりをしているというアレグリーニ。
本拠地とするのは「ロミオとジュリエット」で有名なヴェローナから18km北西にあるヴァルポリチェッラ・クラシコ地域内のフマーネと呼ばれる地区。ヴァルポリチェッラの中でも「クラシコ」と名乗れるのは、最も古くからブドウが栽培される5つの特別地区のみで、フマーネもその1つに数えられているという。
ブドウ品種はコルヴィーナ(70%)、ロンディネッラ(30%)。
ワインの友で観たのは、民放のCSで放送していた日本・ドイツ合作の映画「PERFECT DAYS」。
2023年の作品。
監督・脚本/ヴィム・ヴェンダース、脚本/高橋卓馬、製作総指揮/役所広司、出演/役所広司、柄本時生、中野有紗、アオイヤマダ、麻生祐未、石川さゆり、三浦友和、田中泯ほか。
「パリ、テキサス」「ベルリン・天使の詩」などで知られるヴィム・ヴェンダース監督による公共トイレ清掃員の男が送る日々を描いたドラマ。
東京・渋谷でトイレ清掃員として働く平山(役所広司)は、スカイツリー近くの押上の古いアパートで一人暮らしながら、同じ時刻に目覚め、花に水をやり、支度をし、同じように働き、静かに淡々とした日々をすごしている。
仕事の現場へ車を運転して出かけるときは、若いとき買ったカセットテープの昔の歌を聴き、昼食は現場近くの公園のベンチでおにぎりを食べ、フイルムカメラを上に向けて木漏れ日を撮影する。
家に帰ると銭湯「電気湯」で一日の汗を流し、浅草地下街のいつもの飲み屋でイッパイ。夜は布団に寝ころびながら本を読み、眠くなってくるとメガネをはずして、スタンド電気を消す。
休日は、コインランドリーで洗濯し、木漏れ日を撮影したフィルムをカメラ屋に現像に出し出来上がった写真を受け取る。古本屋で1冊100円の文庫本を探し、行きつけのスナックでママの歌に聞き惚れる。
同じことの繰り返しのような日々。それが平山にとっての「PERFECT DAYS」だったが・・・。
毎日、同じことを繰り返す平山。しかし、彼にとって同じ日は1日としてなく、毎日を新しい日として生きている。毎日のように木漏れ日をカメラで撮るのも、そこにきのうとは違った新しい発見があるからだ。
だからこそ彼は1日1日を「PERFECT DAYS」(完璧な1日、申し分のない1日、素晴らしい1日、とても楽しかった1日)として送っているのだろう。
だが同時に、彼の暮らしは決して満足のいくものではないのはたしかだ。
部屋の本棚にはたくさんの蔵書があって、読んでる本もウィリアム・フォークナー「野生の棕櫚」、幸田文「木」、パトリシア・ハイスミス「11の物語」と、彼がなかなかの知識人であることを示唆している。
物語の途中で彼の妹が登場するが、彼女は運転手付きの黒塗りの自家用車に乗っていて、明らかに金持ちであることがわかる。彼女は、父親の認知症が悪化しているから一度は見舞いに行け、みたいなことを兄にいう。
平山自身、古びていても2階建てのアパートを丸ごと借りてる感じで、まるっきり貧乏ともみえない。
そんな彼が、なぜトイレの清掃員をしているのか?
もちろん清掃という仕事は立派な職業であり誇るものであるのはたしかだが、彼が人生をかけてでもやりたい仕事かというと疑問符がつく。
おそらく平山は、何か事情があって家を飛び出したかして、アウトローの世界に踏み込み、根なし草の暮らしの果てに得た仕事がトイレ清掃の仕事だったのではないか。
映画の中で、同僚の若い清掃員が「きょうで仕事をやめます」といってプッツリといなくなるシーンがあったが、いつやめてもいいような、あるいはいつやめさせられるかもわからないような中で彼は生きているのではないか。
だからこそ彼は、ハタから見れば何の変哲もない、同じような繰り返しにしか見えないようなその日その日を愛おしみ、その中にたしかにある変化を見つけ出そうとしているのではないか。
カンヌ国際映画祭(2023年)で主演男優賞(役所広司)、エキュメニカル審査員賞を受賞。
本作を見ていて、頭に浮かんだ2つの映画があった。
ヴェンダース監督は小津の影響を強く受けていて、過去に小津の「東京物語」へのオマージュを捧げたドキュメンタリー作品「東京画」(1985年)を製作している。
小津は、自分が描くものは「もののあわれ」ということを常々いっていて、「東京物語」にもその思いがこめられていただろう。
「もののあわれ」とは簡単には説明できないが、無常観的な哀愁というか、滅びゆくものの哀れとともに諸行無常的な考え方も含まれるのではないだろうか。
(ちなみに「もののあわれ」を言い出したのは江戸時代後期の国学者本居宣長とされるが、宣長の本姓は「小津」で、小津安二郎の遠い親戚にあたるらしい。宣長の小津家と安二郎の小津家はともに伊勢松坂で同じ木綿商をなりわいにしていたという)
本作の主人公の「平山」は、「東京物語」で笠智衆が演じる「平山」と同じであり、全編に流れているのは「もののあわれ」のような気がして仕方がない。
「もののあわれ」は日本人独特の感じ方といわれるが、ドイツ人であるヴェンダース監督も共通した心を持つ人なのかもしれない。
本作を見ていてもうひとつ連想したのが西川美和監督で役所広司主演の「すばらしき世界」(2020年)だ。
作家の佐木隆三が実在の人物をモデルにつづった小説「身分帳」を原案に、人生の大半を裏社会と刑務所で過ごした男が、社会に適応しようとあがきながらも再出発しようとする日々を描いた作品だが、タイトルの「すばらしき世界」は「PERFECT DAYS」とも似ているし、この映画の主人公もどこか「平山」に似た生き方をしている。
それとも、役所広司が演じるとどうしても似たような人物に見えてしまうのだろうか?