善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

きのうのワイン+映画「シティ・オブ・ジョイ」「ザ・コンサルタント」

イタリア・ヴェネトの赤ワイン「ヴァルポリチェッラ(VALPOLICELLA)2021」

ワイナリーはアレグリーニ。本拠地とするのは「ロミオとジュリエット」で有名なヴェローナから18㎞北西に行った、ヴァルポリチェッラ・クラシコ地域内のフマーネと呼ばれる地区。

ヴァルポリチェッラの中でも「クラシコ」と名乗れるのは、最も古くからブドウが栽培される5つの特別地区のみで、フマーネもその1つという。

ブドウ品種はコルヴィーナ・ヴェロネーゼとロンディネッラ。

軽やかな味わいのワイン。

 

ワインの友で観たのは、民放のBSで放送していたフランス・イギリス合作の映画「シティ・オブ・ジョイ」。

1992年の作品。

原題「CITY OF JOY」

監督ローランド・ジョフィ、出演パトリック・スウェイジ、ポーリーン・コリンズ、オム・プリ、シャバナ・アズミ、アイーシャー・ダルカール、アート・マリクほか。

人生に絶望したアメリカ人医師がインドのカルカッタ(現コルカタ)で再起していく姿を描いたヒューマンドラマ。

ダーティ・ダンシング」「ゴースト ニューヨークの幻」などでトップスターとなったパトリック・スウェイジが主演。音楽は「ニュー・シネマ・パラダイス」やマカロニウェスタンの音楽でも知られるエンニオ・モリコーネ

1992年の公開以来、日本ではDVD化されなかった作品で、2022年に4Kデジタルリマスター版としてリバイバル劇場公開された。

 

アメリカ・テキサス州ヒューストンの手術室。青年医師のマックス・ロウ(パトリック・スウェイジ)は少女を救おうとするも治療及ばず少女は息を引き取る。自分の未熟さに絶望したマックスは医師を辞め、放浪の旅に出てカルカッタにやってくる。

そのころ、インド北東部のビハール州で暮らす農民のハザリ(オム・プリ)とカムラ(シャバナ・アズミ)夫婦と3人の子どものパル一家は、不作のため土地を失い、貧困にあえいでいた。このままでは年ごろの娘アムリタ(アイーシャー・ダルカール)が結婚する際の持参金も用意できないと、一家そろってカルカッタへ出稼ぎに行く。

田舎から来たパル一家は大都会カルカッタに圧倒され、泊まるところもなく路上で野宿したりするが、ようやくのこと、街を支配する“大旦那”の計らいで人力車の車夫の仕事を得て、スラム街に住む家も見つける。

一方、カルカッタにやってきたマックスがたどり着いたのも、ハザリらがいるスラム街だった。そこには貧しい者を診療する粗末な診療所があり、運営しているのはヨーロッパからやってきたジョアン(ポーリーン・コリンズ)という女性。ジョアンはマックスに、ここは「City of Joy(歓喜の街)」だと告げる。

そこの仕事を手伝ううち、マックスはさまざまな人間模様を目の当たりにする。

貧困にあえぐ人々、差別されるハンセン病の患者、そんな中でも懸命に働くハザリたち。

マックスは、ジョアンからこんな言葉を聞く。

「人生には3つの生き方がある。逃げるか、傍観するか、飛びこむか」

極貧のスラム街で生き抜く人々との交流の中で、マックスは、次第に医師としての誇りを取り戻していく・・・。

 

感動的なシーンがあった。

歓喜の街”の診療所に、カルカッタを流れるガンジス川の支流であるフーグリ川近くに住む体の不自由なハンセン病の男が駆け込んでくる。

妻が難産で苦しんでいるので助けてほしいというのだ。差別に苦しむハンセン病患者にとって助けてもらえるところはなく、頼れるのはここだけだったのだのだが、あいにくこの日はいつもいる医者が不在だった。

そのころはまだマックスは診療所で働くことを拒んでいた。しかし、緊急事態であり、そんなことはいってられない。使える医薬品も不足しているが、あり合わせの道具で妊婦と子どもを救おうとマックスは立ち上がる。

車夫のハザリとカムラ夫婦も手伝いにいく。最初はハンセン病の感染を恐れたハザリだったが、「心が清ければ恐れることはないわ」とカムラにいわれ、目が覚めた表情のハザリ。

マックスはカムラらの手を借りて難産の子を無事取り上げる。

新しい命の誕生に、スラム街の人々は手を取り抱き合って喜び合うのだった。

 

原作は1985年に出版されたドミニク・ラピエールの小説(邦訳は1987年に河出書房新社より「歓喜の街カルカッタ」として出版)。

この作品の映画化に強い関心を示し、ノーギャラで出演したのが当時人気絶頂だったパトリック・スウェイジだったが、すい臓がんで2009年9月に死去。57歳という若さだった。

パトリック・スウェイジが演じたマックスの生き方にも感動したが、この映画のもう1人の主役はインドの片田舎から、異常なほどのパワーと混乱が渦巻く大都会カルカッタにやってきて、家族を守り、希望を持ち続けて生きるハザリだったろう。

モンスーンで大雨が降り、街中が腰まで水につかるような洪水になる。すると大喜びするハザリら人力車の車夫たち。雨が降って街が水に漬かれば、おかげで人力車の客は増え、運賃も高く取れる。だから市民には災難でもハザリらにとっては天の恵みなのだ。

何とか持参金を工面できて、娘を嫁に出すときのハザリの娘への言葉。

「お前は私のものではない。神から授けられた大切な娘なんだ」

 

「生きていくのはラクじゃないが、だからこそ素晴らしいのさ」というセリフがあったが、どんな逆境の中でも、負けてなるかと生きる人々のたくましさ。14億の民を擁するインドという国の底力を教えられたような映画だった。

 

映画の中で人力車のことを「リキシャ(リクシャ)」と呼んでいたが、まさしく語源は日本語の「人力車」からきている。

人力車はもともと1870年(明治3年)に日本で発明されたもので、その後アジア各国に輸出。とくにインドでは明治40年代に年間1万台が日本から輸出され、「リキシャ」「リクシャ」と呼ばれて親しまれ、安価で小回りきくので庶民の足となった。

今は人力車に代わって三輪タクシーの時代になったが、それでも呼び名は「リキシャ(オートリキシャ)」。

コルカタでは、今も人力のリキシャが活躍しているという。

 

ついでにその前に観た映画。

民放の衛星チャンネルで放送していたアメリカ映画「ザ・コンサルタント」。

2016年の作品。

原題「THE ACCOUNTANT」

監督ギャビン・オコナー、出演ベン・アフレックアナ・ケンドリックJ・K・シモンズほか。

天才的な数学の能力を持つ会計士が、凄腕の殺し屋としても活躍するサスペンスアクション。

大都市シカゴ郊外にある田舎町の会計士クリスチャン・ウルフ(ベン・アフレック)には、世界中の危険人物の裏帳簿を仕切る一方で、年収10億円を稼ぎ出す命中率100%のスナイパーというもう1つの顔があった。

そんなクリスチャンにある日、大企業からの財務調査の依頼が舞い込む。クリスチャンは重大な不正を見つけるが、その依頼はなぜか一方的に打ち切られ、その日からクリスチャンは何者かに命を狙われるようになる。

一方、彼の闇の社会での会計術に、財務省捜査官たちも目を光らせていた・・・。

 

筋肉ムキムキのマッチョなベン・アフレックがクリスチャン役で登場したところで、この会計士はただ者じゃないとすぐわかる。

ただし、“天才的頭脳を持つ主人公が実は特殊戦闘能力を併せ持つ男”という設定で従来の映画と違うところは、主人公が子どものころから高機能自閉症だったということだ。

自閉症は言葉の遅れや知的障害を伴い、人とのコミュニケーションをとるのが難しい特徴があるが、高機能自閉症は知的障害のみられない自閉症だという。また、アスペルガー症候群というのもあって、これも知的障害はなく人によっては優れた才能を発揮することがあるが、こうした自閉症高機能自閉症アスペルガー症候群を総称して、今は自閉スペクトラム症と呼んでいるそうだ。

クリスチャンの父母は、診察した医師から「お子さんは落ち着いた環境ですごすのが一番だから施設に預けたらどうか」と勧められる。しかし、厳格な軍人である父親は首を振る。「甘えた環境ではなく、むしろ厳しい環境の中で困難に立ち向かう教育が必要」というので、障害を肉体的強さで克服しようと、クリスチャンは父に鍛えられて天才的な頭脳に加えて特殊戦闘能力を身につけた男に成長していた。

 

映画の中で、医師が語る言葉が印象的だった。

自閉症と診断された息子さんは劣ってるのではありません。人と違うだけです」

そして、医師はある女性の話をする。彼女は幼いときからの障害で30年間、口を開かない。ところが彼女はパソコンの天才で、ペンタゴンへのハッキングも可能な最新のマシンを使って会話しているという。

自分の感情をコントロールしたり、身ぶりや表情から相手の思っていることを理解する、といったことがうまくできないのが発達障害とされる自閉スペクトラム症の特徴だが、その一方で、自分の興味や行動へのこだわりも強いものがある。

これは、障害というより、生まれつきの行動や思考の特性であり、個性や性格に近いものではないか、と最近ではいわれているようだ。

劇中では、「不思議の国のアリス」の作者ルイス・キャロルなど、自閉症だったとされる歴史上の偉人たちの名前が次々に出てきて、彼らへのオマージュともなっていた。

 

原題は「THE ACCOUNTANT」で、そのものズバリ「会計士」の意味だが、邦題は「コンサルタント」。

会計士よりコンサルタントのほうがカッコイイし客も呼べる、と配給会社は考えたのだろうか?