善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

きのうのワイン+映画「女と男のいる舗道」ほか

フランス・ボルドーの白ワイン「ムートン・カデ・ブラン(MOUTON CADET BLANC)2021」

メドック格付け第一級シャトーを所有するバロン・フィリップ・ド・ロスチャイルドが本拠地ボルドーで手がけるワイン。

ソーヴィニヨン・ブランを主体にセミヨン、ミュスカデルをブレンド

ブドウ由来の爽やかな柑橘系の風味と凛とした酸によるバランスのとれた味わい。

 

ワインの友で観たのは、民放のBSで放送していたフランス映画「女と男のいる舗道」。

1962年の作品。

原題「VIVRE SA VIE」

監督ジャン=リュック・ゴダール、出演アンナ・カリーナ、サディ・レボ、アンドレ・S・ラバルトほか。

 

女優を夢見て夫や子どもと別れ、パリで気ままに暮らすうち、やがて娼婦へと転落していくナナの姿を12のエピソードで綴る。

舞台女優を志すナナは、夢を叶えるため夫と子どもを置き去りにして家を出てしまう。夫の説得に応じずレコード店で働きながら自活するが、やがて家賃を支払えなくなり、アパートの鍵を取り上げられてしまう。

管理人室にこっそり侵入して鍵を取り返そうとするも失敗し、映画館に足を運んで『裁かるゝジャンヌ』を見ながら涙を流す。その後、生活に困窮したナナは、娼婦が立つ舗道で声をかけてきた男に体を売ってしまう・・・。

 

勝手にしやがれ」のジャン=リュック・ゴダールの長編第4作。

シェルブールの雨傘」などの作曲家ミシェル・ルグランが音楽を担当。

原題の「VIVRE SA VIE」は「自分らしく生きる」の意。

ゴダールはこの映画について「人間の存在を顔に集約した肖像画のような映画を撮りたかった」と語っている通り、映画の冒頭からアンナ・カリーナの横顔が延々と映し出される。

だが、映画は売春婦に転落したナナが、ヒモ男から売春業者に売り渡され、金の受け渡しをめぐるいさかいに巻き込まれて拳銃で撃たれて死んでしまう。

どこが「自分らしく生きる」なのかと思ってしまうが、ゴダールアンナ・カリーナという女優の美しさを映しつつ、「自分らしく生きる」ことの難しさ、哀しさを問いかけているのだろうか。

 

ついでにその前に観た映画。

民放のBSで放送していたアメリカ映画「再会の街で」。

2007年の作品。

原題「REIGN OVER ME」

監督マイク・バインダー、出演アダム・サンドラードン・チードル、ジェイダ・ピンケット=スミス、リブ・タイラーほか。

 

ニューヨークで歯科医として成功したアラン(ドン・チードル)は、9・11の同時多発テロで墜落した飛行機に乗っていた家族を亡くした大学時代のルームメイト、チャーリー(アダム・サンドラー)を街で見かける。

チャーリーは愛する家族を一度に失い重度のPTSD心的外傷後ストレス障害)になって以来、いまだに立ち直れず、固く心を閉ざしていた。

そんな旧友を心配したアランは、妻がいる家では息抜きできないこともあって、チャーリーと一緒になって気ままに夜の街を遊び回るようになる。2人は互いに衝突しながらも、次第に互いを必要とする関係になっていくが・・・。

 

家族を理不尽な理由で失ったことからの喪失感と、それによる心の病。友情によって人との絆を取り戻し、困難を乗り越えていく再生の物語。

映画では、心に傷を負ったチャーリーを精神病院に収容するかどうかを争う裁判にまで発展するが、登場する裁判所の判事が杓子定規じゃなくて、実に人間的。

困っている人の現実をちゃんと見てくれて、その人に寄り添った判断をしようとする判事の姿に、日本にもこんな判事がきっといるはずと思った。

 

民放のBSで放送していたスペイン・アメリカ合作の映画「THE PROMISE 君への誓い」。

2016年製作の作品。

監督テリー・ジョージ、出演オスカー・アイザック、シャルロット・ルボン、クリスチャン・ベール、ダニエル・ヒメネス・カチョほか。

 

150万人が犠牲となったといわれるオスマン帝国によるアルメニア人大量虐殺事件を題材に、事件に翻弄された3人の男女を描いたヒューマンドラマ。

 

第一次世界大戦が始まったばかりの1914年、オスマン帝国(今のトルコ)の小さな村に生まれ育ったアルメニア人青年ミカエル(オスカー・アイザック)は、裕福な家庭の娘と婚約し、彼女の持参金を学資にしてコンスタンチィノープル(その後イスタンブールに改称)にある帝国医学大学に入学し、医師をめざす。大学で学ぶうち、同郷のアルメニア人女性アナ(シャルロット・ルボン)と出会い、彼女に恋心を抱くが、彼女にはアメリカ人記者のクリス(クリスチャン・ベール)という恋人がいた。

第1次世界大戦の勃発とともにアルメニア人への弾圧が強まり、彼らは過酷な運命を歩むことになる。アルメニア人への弾圧がさらに強まる中、故郷の村に向かったミカエルはアルメニア人に対する虐殺を目撃する。一方のクリスはトルコの蛮行を世界に伝えるべく奔走し、アナもクリスと行動をともにするが・・・。

 

当時、アルメニア人は現在のトルコ国土のおよそ東半分に散らばって住んでいた少数民族だった。トルコ人の大半はイスラム教だが、アルメニア人はアルメニア正教に属するキリスト教徒がほとんど。オスマン帝国の第1次世界大戦への参戦とともに迫害の対象となり、強制移住、虐殺などにより死亡したアルメニア人は150万人にのぼるといわれ、オスマン帝国政府による計画的で組織的なジェノサインドとの見方が強い。しかし、トルコ政府はいまだに自分たちの非を認めていないという。

 

次々と同胞が殺されていき、復讐に燃える主人公のミカエルに対し、一緒にいたアナの言葉が心に残る。

「今ここで死んではダメよ。生きることが復讐よ」

 

本作の製作費9千万ドルの大半は、虐殺から生き延びた家族を持つアルメニアアメリカ人のカーク・カーコリアンという大富豪が提供し、彼は製作総指揮にも名を連ねた。しかし、映画の完成を待たずに、98歳で亡くなったという。