善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

きのうのワイン+映画「斬る」「イエスタディ」他

フランス・ボルドーの赤ワイン「ムートン・カデ・レゼルヴ・メドック(MOUTON CADET RESERVE MEDOC)2018」

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格付け一級シャトーが手がけるムートン・カデの上級シリーズ。メドックの魅力を表現した厚みのある果実味と複雑なニュアンスが魅力。

メルロとカベルネ・ソーヴィニヨンブレンド

 

ワインの友で観たのは、NHKBSで放送していた日本映画「斬る」。f:id:macchi105:20220302131532j:plain

1962年の作品。

監督・三隅研次、脚本・新藤兼人、出演・市川雷蔵藤村志保天知茂渚まゆみほか。

 

柴田錬三郎の原作から新藤兼人が脚色し、「座頭市物語」や「眠狂四郎」シリーズの三隅研次が監督した剣客もの。映像と音声を修復した4Kデジタル修復版での放送。

 

天才剣士・高倉信吾(市川雷蔵)は、3年の武者修行の中で三絃の構えという異能の剣法を会得し、故郷に帰ってくる。つかのまの平和な日々。しかし、ある日、父と妹(渚まゆみ)が隣家の親子に惨殺され、死に瀕した父親から出生の秘密を聞かされる。

彼の実母(藤村志保)は御家のために主君の愛妾を殺したが、特別の計らいで1年間の猶予をもらい、妊娠し信吾出産後に信吾の父(天知茂)に幸せな表情で首を刎ねられる。

のちに仏門に入った実の父と対面したとき、父はこう語る。

「お前の母は一生涯の女の愛を1年で使い果たしたのだ」

出生の秘密を知った信吾は、斬ることの宿命を背負って剣に生きる覚悟をする。

邪剣と知りつつ相手のノドを狙う異様な三絃の構えをあやつる彼の剣はまさに天下無敵だった・・・。

 

市川雷蔵このとき31歳。しかし、37歳の若さで直腸がんのため亡くなる。

亡くなる前年にがんであることがわかったが、本人には知らされなかった。翌年、「あゝ海軍」という映画に出演を予定していて、本人はとても意欲的だったものの体調不良のため入院。代役に立ったのが当時25歳の二代目中村吉右衛門だった。代役を立てると知った雷蔵はそれ以降、仕事の話を一切しなくなり、映画公開と同じ7月に亡くなったという。

藤村志保に至ってはこのときまだ23歳。「斬る」と同じ年の市川昆監督「破戒」(主役は市川雷蔵)のヒロインで映画デビューしたばかりだった。

 

圧巻は最後の大立ち回りのシーン。

幕府大目付松平大炊頭(柳永二郎)の警護役となった信吾は、大炊頭とともに水戸城内に入るが、亡き先君の仏間というので腰の刀を渡してしまう。

聞こえてくるのはウグイスの声、庭にはウメの花。ウメにウグイスという、のどかで日本的な風景の中、実は武装した水戸の藩士らが2人を取り囲んでいて、大炊頭を暗殺しようとする。信吾は咄嗟に床の間に活けてあったウメの一枝をつかみ、敵の刀で先を斬らせ、三絃の構えから尖った先端で相手のノドを刺してその刀を奪い取り、敵をバッタバッタと斬っていくものの、時すでに遅し、大炊頭は殺されていた・・・。

 

そういえば同じ1962年には黒澤明監督の「椿三十郎」も公開されていて、三船敏郎が演じる浪人はツバキが一面に咲いているのを見て自分の名前を「椿」と名乗る。

椿三十郎」は正月映画だったからまさしくツバキの季節。

それに対抗したのか、「ウメにウグイス」という日本人ならではの美意識にこだわったのが「斬る」だったが、公開は夏真っ盛りの7月だった。

 

ついでにその前に観た映画。

民放のBSで放送していたイギリス映画「イエスタディ」。

2019年の映画。

監督ダニー・ボイル、出演ヒメーシュ・パテル、リリー・ジェームズケイト・マッキノンエド・シーランほか。

 

題名からしビートルズの伝記映画かなんかかと思ったら、ビートルズの存在を誰れも知らない世界で、ビートルズの曲を歌って人気を得ていく貧乏ミュージャンを描くコメディドラマだった。

 

イギリスの小さな海辺の町で暮らすシンガーソングライターのジャック(ヒメーシュ・パテル)は、幼なじみの親友エリー(リリー・ジェームズ)から献身的に支えられているものの全く売れず、音楽で有名になる夢を諦めかけていた。そんなある日、世界規模の瞬間的な停電が発生し、ジャックは交通事故に遭って昏睡状態に陥ってしまう。

その後、無事回復したジャックは快気祝いにプレゼントしてもらったギターを爪弾きながら、友人たちの前でビートルズの「イエステディ」を歌って聴かせる。ところが、うっとりとして聴き終えた友人たちは誰もその曲を知らなかった。

異変に気づいたジャックは帰宅後インターネットで「ビートルズ」を検索するが、カブトムシなどは出てきてもロックグループのビートルズはまったくヒットしない。そこでジャックは、あの大停電により、史上最も有名なはずのビートルズが存在しない世界になっていたことに気づく。彼らの曲を覚えているのは世界で自分ただひとりとわかり、これを利用してビートルズの曲を歌って有名になろうとするが・・・。

 

映画では何と、最後の方でジョン・レノンが登場してジャックと対面している。

ビートルズが存在しない世界なのだからジョン・レノンもミュージシャンにはならず、おかげで暗殺も免れ、78歳になっていた。とするとジョンはオノ・ヨーコとも出会えなかったのか?

ちなみにジョン役にはロバート・カーライルカメオ出演しているが、なかなかのソックリさん。船乗りとなって世界中を旅したというジョンに「幸せか?」とジャックがたずねると、ジョンはこう答えていて、この映画のテーマを浮き彫りにしている。

愛する人がいて、愛を伝えているから幸せさ」

 

民放のBSで放送していたアメリカ映画「ワンダーボーイズ」。

2000年の作品。

監督カーティス・ハンソン、出演マイケル・ダグラストビー・マグワイアロバート・ダウニー・Jrフランシス・マクドーマンドほか。 

 

50代を迎えスランプに陥った中年作家兼大学教授の人生の再出発をユーモラスに描くドラマ。

 

かつては“ワンダー・ボーイ(神童)”と騒がれ、7年前に執筆した処女作で作家としても成功したピッツバーグの大学の教授グラディ(マイケル・ダグラス)。50代を迎えても2作目がいまだ仕上がっておらず、スランプに陥っている。ストレスから大麻に手を出し、妻は家を出て、友人の妻で大学の学長のサラ(フランシス・マクドーマンド)とは不倫の末に妊娠させてしまい、お先真っ暗。

一方、グラディのクラスの学生ジェームズ(トビー・マグワイア)はグラディの処女作を読んで作家を目指すようになり、グラディに教わりたくて大学に入学したが、クラスでは浮いた存在で、友人もいない。

新世代のワンダー・ボーイともいえるジェームズが起こすトラブルに巻き込まれながらも、やがてグラディは惰性で生きてきた中途半端な自分に気づいていく・・・。

 

エンドロールで流れていたのはボブ・ディランが歌う「Things Have Changed」で、アカデミー歌曲賞を受賞。