善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

きのうのワイン+映画「ミッシング」

フランス・アルザスの赤ワイン「ピノ・ノワール・レゼルヴ(PINOT NOIR RESERVE)2022」

(写真はこのあと牛のサーロインステーキ)

ワイナリーは1626年に創業し4世紀13代にわたって歴史と伝統を育んできたアルザスきっての名門トリンバック。

アルザスはドイツとの国境に接し、ブドウ、小麦などの農産物、鉄や石炭の産地であるところから両国の間で1000年にわたって争奪戦が繰り広げられた。

今はフランス領となっているが、ドイツ領だった時代もあり、何年か前にフランスを旅してアルザスストラスブールに行ったときもドイツっぽさを感じた。

そのとき聞いた話では、アルザスでつくられるワインは白が中心で、赤ワインはピノ・ノワールしかないということで、きのう飲んだのもピノ・ノワール100%。果実味とともに凛とした伸びのある酸味が心地よいワインだった。

 

ワインの友で観たのは、民放のCSで放送していたアメリカ映画「ミッシング」。

1982年の作品。

原題「MISSING」

監督・脚本コスタ=ガヴラス、脚本ドナルド・スチュワート、撮影リカルド・アロノビッチ、音楽ヴァンゲリス、出演ジャック・レモン、シシー・スペーセク、ジョン・シーア、メラニー・メイロン、チャールズ・シオッフィほか。

1973年9月、南米チリで、選挙により選ばれたアジェンデ大統領の人民連合政権がピノチェト将軍らによる軍事クーデターによって倒され、独裁政治が始まる。クーデターの最中、妻ベス(シシー・スペーセク)とともにチリに滞在していたアメリカ人の青年チャールズ・ホーマン(ジョン・シーア)が行方不明になる。

ベスから知らせを受けたチャールズの父エドジャック・レモン)がアメリカから飛んできて、現地でベスとともにチャールズの行方を追うが、その行方はようとして知れない。

チャールズの失踪にはクーデターが深く関わっており、そこにはアメリカ・ニクソン政権による陰謀が見え隠れしていた・・・。

 

南米チリの軍事クーデターに巻き込まれ行方不明となったアメリカ人青年の実話を、リアリズムあふれるタッチで映画化した社会派政治スリラーの問題作。

アメリカの作家トーマス・ハウザーの著書「THE EXECUTION OF CHARLES HORMAN : N AMERICAN SACRIFICE(チャールズ・ホーマンの処刑:アメリカの犠牲)」(1978年、1982年に「MISSING(行方不明)」と改題)を映画化。

 

1917年のロシア革命以降、誕生した社会主義政権はすべて軍事力による暴力革命によるものだった。1970年、世界で初めて民主的な選挙によりアジェンデが大統領に選ばれて人民連合政権が樹立された。アジェンデ政権は議会制のもとで社会主義社会の実現をめざす世界で初めての政府であり、「チリの実験」として国際的な注目を浴びた。

これに危機感を抱いたのは、チリ国民ではなくアメリカ政府だった。

第2次世界大戦後、アメリカは「共産化阻止」を理由にインドシナではベトナムに軍事介入して全面戦争をはじめていたし、アメリカの「裏庭」と自認する中南米諸国に対しても、1959年のキューバ革命により親米政権が倒されて以来、何度もキューバカストロ政権の転覆を図る一方で、中南米各国の親米勢力に対してCIA(アメリカの諜報機関)が膨大な秘密資金や武器を提供するなど直接・間接の介入を繰り返していた。

アジェンデ政権成立から3年後の1973年、ピノチェト将軍に率いられたチリ軍部のクーデターによってアジェンデ政権は倒れたが、それを裏で操っていたのがCIAであり、ニクソン政権だった。

 

そもそもアジェンデ政権が誕生したのは、アメリカの利権を優先する親米政権により国民の大多数が貧困の状態に置かれていて、それに対する国民の怒りの結果だった。そこでアメリカ資本と、代弁者であるニクソン政権はどうしたかというと、自分たちは表に出ない形でのアジェンデ政権の転覆を画策した。

その真相をズバリ明かしたのが本作だった。

軍事クーデターの最中に行方不明になったアメリカ人青年は、クーデターを起こした勢力と米軍が内通している事実を知る。一方、それを察知した米側も、クーデター軍によって青年が拉致されると、それを黙認して、行方はわからないと知らんぷりを貫く。

ジャック・レモン演じる息子を探し続ける父は、アメリカで成功したビジネスマンであり、アメリカ政府を信じる保守的な男。はじめは反政府的な動きをする息子夫婦に批判的なのだが、次第にことの真相を知り、政府への不信感を募らせていく。

行方不明となっていたアメリカ人青年は、拉致されてから3日後にクーデター軍によって処刑され、処刑場があったスタジアムの壁に塗り込まれていたことがわかる。

怒りと悲しみに包まれて帰国した父と青年の妻は、軍事クーデターをうしろから糸を引いていたアメリ国務長官キッシンジャーを始めとする政府高官を、男性の拉致と殺害を共謀・放置したとして裁判に訴える。

キッシンジャーというと国際平和に貢献した人と持ち上げられているが、実際にはチリなどで市民の大量殺戮や暗殺、誘拐などの関与し、悪辣なことを行っていたのだ。

しかし、遺体は殺害されてから7カ月後に戻ってきたものの検視不可能な状態で、キッシンジャーらが行ったことは「国家機密」として闇の中となり、訴えは証拠不十分で却下される。

ジャック・レモンが、善良な一市民として、政治に翻弄されながらも息子の行方を探す父親役を熱演。

本作はカンヌ国際映画祭パルム・ドール(最高賞)、男優賞(ジャック・レモン)、アカデミー賞脚色賞を受賞している。