善福寺公園めぐり

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文楽「新版歌祭文」住大夫の至芸

きのうの夜は国立劇場文楽公演。演目は「新版歌祭文」と「団子売」。

「新版歌祭文」はお染久松の「野崎村の段」で有名な話。野崎村と聞いてすぐに東海林太郎の「野崎参りは屋形船で~」(野崎小唄)を歌い出す人は年がわかる。それはともかく、住大夫の語りが至芸だった。

もう、出てきたときから空気が一変した。住大夫が語り始めると、それまで死んでいた(ように見えた)人形が生き返ったようだった。その前の「切場」を担当した綱大夫がなんかボソボソした感じだったから余計に引き立ったのかもしれないが、今年86歳になる住大夫は今がいちばんいいのではないか、と思うほどだった。

養父、盲目の養母、久松、お染、おみつ、悪役の小助と、一度に6人も出るシーンがあるが、見事に演じ分けていた。そして何より、泣かせる。
できれば最後まで泣かせてほしかったが、最後のシーンはなぜか滑稽で終わる台本のようで、住大夫もさすがに疲れ果てたのか、三味線の華やかさに隠れてしまった感じがしたのは残念。

簑助のおみつも、父親の久作から「年が明けたら久松の内儀になる」といわれて恥ずかしくて身をすくめるところなど、娘の気持ちを見事に表現していたし、勘十郎の小助の悪役ぶりもいかにもふてぶてしくて、笑ってしまった。

「油屋の段」の咲大夫も、ああいう修羅場の語りは得意なのか、人形と息が合っていてよかった。
「団子売」は景事と呼ばれ、団子を売る姿を踊りで表現したものだが、期待していた以上。特に人形遣いの吉田一輔がよく見えたが、これからの成長が楽しみな若手の1人といえよう。

休憩も入れて4時間に及ぶ公演が終わって、劇場から帰る道すがら、「文楽っていいな~!」としみじみ思ったものだった。