善福寺公園めぐり

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住大夫引退公演

きのう19日(月)は国立劇場の5月文楽 七世竹本住大夫の引退公演(26日まで)。
行ったのは第1部で、演目は「増補忠臣蔵 本蔵下屋敷の段」、「恋女房染手綱 沓掛村の段 坂の下の段」、「卅三間堂棟由来(さんじゅうさんげんどうむなぎのゆらい) 平太郎住家より木遣り音頭の段)」。

住大夫の引退狂言は「恋女房染手綱 沓掛村の段」。
父の六世住大夫の引退狂言も同じ「沓掛村の段」だったという。
「恋女房染手綱」で有名なのは子別れの場面で涙を誘う「重の井子別れの段」だが、あえて難しくてあまりやらない「沓掛村の段」を引退狂言にしたあたり、「これが最後」の意気込みを感じる。

会場は満員。昼間の公演(11時開演)はいつもおばさんが多い感じなのに、きょうは男性も多かったし、若い女性も目についた。着物姿の人も多かった。
座った席は前から7番目で、舞台も、太夫の姿もよく見える位置。

弟子の文字久大夫が語ったあと、文楽廻しがまわって住大夫が登場すると、われんばかりの拍手。「住大夫!」の声がかかる。
オン年89歳。文楽史上最高齢という。たしかに声を聞くと老いは隠せない。しかし、文楽とは「情」を語る世界だ。振り絞るような声から切々とした情が伝わってくる。

5歳の子どもから老女まで、さまざまな声を演じ分けるのが太夫
以前、住大夫は「義太夫とは息と腹力で語るもの」といっていた。そして、それぞれの役柄を音(オン)で語り分けるのだという。
「節に音(オン)あり、言葉に音(オン)あり」
それが備わってくれば役の人物になりきれる、というようなことをいっていたが、まさにそのとおりの舞台だった。
それが、きょうが見納めとは。ただ、涙するのみ。

十何年間だったか、NHKの「文楽入門」とかいう番組で、山川静夫アナの司会で住大夫が実演入りで文楽の魅力を何日かに分けて紹介していた。懇切丁寧な話にナルホドと思い、以来、文楽のファンになった。
東京の公演でどの番組(たいがい1部、2部とか、1部、2部、3部に分かれている)を見に行こうかの品定めも、住大夫の出演番組を真っ先に探した。
その楽しみがなくなるのが寂しい。

人形では馬方八蔵の勘十郎が絶品。
見得を切ったところの八蔵のカッコイイこと!

簑助、文雀も出演して、みんなで住大夫の引退を惜しんでいるようだった。

八蔵が脇差しを砥石で研ぐ場面では、錦糸が三味線の擦る音で表現していたが、八蔵の情念が見事に伝わる三味線遣いだった。

「卅三間堂棟由来」の簑助の女房お柳にもうっとり。その艶っぽさといったらなかった。若い女房をやらせたら簑助、の感。