善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

きのうのワイン+映画「宋家の三姉妹」「月曜日に乾杯!」

イタリア・トスカーナの赤ワイン「サンタ・クリスティーナ・ロッソ(SANTA CRISTINA ROSSO)2022」

はるか14世紀からの歴史を持つアンティノリがトスカーナで手がけるワイナリー、サンタ・クリスティーナのワイン。

トスカーナはおよそ2000年にも及ぶブドウ栽培の歴史があるといわれているが、そのトスカーナ原産のサンジョヴェーゼをはじめ、カベルネ・ソーヴィニヨン、プティ・ヴェルドをブレンドしたバランスがとれて飲みやすいワイン。

 

ワインの友で観たのは、民放のCSで放送していた香港・日本合作の映画「宋家の三姉妹」。

1997年の作品。

原題「宋家皇朝

監督メイベル・チャン、出演マギー・チャンミシェール・ヨー、ヴィヴィアン・ウー、ウィンストン・チャオ、ウー・シングォ、チアン・ウェンほか。

近現代中国史に大きな影響を与えた宋靄齢(そう・あいれい)・宋慶齢宋美齢の三姉妹の波乱の人生を描いた伝記映画。

 

20世紀初頭の中国。名家の宋家の三姉妹、長女の靄齢(ミシェール・ヨー)、次女の慶齢(マギー・チャン)、三女の美齢(ヴィヴィアン・ウー)は、クリスチャンでもあった開明家の父チャーリー宋(チャン・ウェン)の薫陶を受けて、古い因習に囚われずのびのびと育てら4れた。

アメリカ留学から帰国した彼女たちは、それぞれに全く異なるパートナーを選ぶ。

靄齢は孔子の子孫で名門財閥の御曹司、孔祥煕(ニウ・チェンホワ)と、慶齢は革命家の孫文(ウィンストン・チャオ)と、そして美齢は孫文の軍事顧問だった蒋介石(ウー・シングォ)の妻となる。

中華民国から中華人民共和国へ至る動乱のなか、日中戦争下では統一中国の象徴として行動を共にした三姉妹も、戦後はそれぞれの人生を歩んでいく・・・。

 

香港がイギリスから中国に返還されたのは1997年7月。その2カ月前に公開されたから、まだイギリス領だったころの香港・日本の合作映画。女性監督メイベル・チャンが5年の歳月をかけて製作に取り組み、喜多郎が音楽を、ワダエミが衣装を担当している。

岩波ホール創立30周年記念作品、東宝東和創立70周年記念作品として日本では岩波ホールで1998年11月から公開が始まり、空前の大ヒットを記録して31週間のロングラン。さらに99年12月のアンコールロードショーでも15週間、劇場稼働率98%で、通算46週間、314日間の興行となり、岩波ホールという単館だけで動員19万人、興行収入3億1000万円を記録したという。

 

毛沢東は本作に登場する三姉妹を評して「一個愛錢、一個愛權、一個愛國」と語ったそうだが、長女の靄齢は財閥の御曹司つまり「お金」と結婚し、三女の美齢は孫文亡きあと国民党の実権を握った蒋介石つまり「権力」と結婚。中国革命の父とされる孫文つまり「祖国」と結婚したのが次女の宋慶齢だったというわけだ。

その3人を描いているだけに、清朝末期の孫文による革命運動から中華民国をへて中華人民共和国中華民国に至るまでの中国の歴史がよくわかる映画だった。

 

宋慶齢は「祖国と結婚した」といわれるだけあって広く敬愛された人物。映画の中でも、孫文の存命中はともに中国革命のために働き、孫文死後も夫の意志を引き継いで近代国家の建設に情熱を捧げた女性として描かれている。

1949年に国共内戦終結すると、台湾に逃れた蒋介石夫人の妹・宋美齡とは行動を別にして中国大陸に残り、中華人民共和国成立とともに中華人民政府副主席に就任。1981年88歳で亡くなる直前には名誉主席の称号を授けられている。

一方、「お金と結婚した」といわれる長女の宋靄齢は、妹の宋慶齢より前に孫文の秘書となり、日中戦争が始まると宋慶齢や、やはり妹の宋美齢とともに抗日運動に参加。しかし、やがて国民党政府の財政部長でもあった夫の孔祥煕とともに富を増大させることにばかり腐心するようになり、共産党とも敵対するようになっていったという。

毛沢東が勝利して中華人民共和国が樹立される直前、彼女はアメリカに渡り、そこで生涯を送っている。

「権力と結婚した」といわれる宋美齢はどうだったか?

彼女は蒋介石の妻というだけでなく政治家としても優秀だったみたいで、1936年に起きた西安事件(張学良が蒋介石を拉致・監禁して抗日のための国共合作を迫った事件)のとき、自ら夫が監禁されていた西安に飛行機で飛び、張学良と直談判。夫に国共合作を進言して事件解決に一役買っている。その後も、蒋介石の政治的決定には彼女の強い影響があったといわれる。

しかし、英語が堪能でアメリカとの結びつきも強かった彼女は、戦後は反共の先頭に立ち、内戦で敗北すると夫とともに台湾に逃げる。ところが、蒋介石の死後、先妻の子であり血のつながりのない蔣経国が権力を引き継ぐと、アメリカに移住し、ロングアイランドの広大な屋敷に居を構え、105歳で亡くなる。

 

それにしても、もともとは強い絆で結ばれていたのに、時代の流れの中で別々の道を行くことになる三姉妹の生き方がスゴイ。しかもそろって中国を動かし、世界にも影響を与えたというのだから、まさに三者三様、波瀾万丈の生涯といえるだろう。

 

ついでにその前に観た映画。

民放のCSで放送していたフランス・イタリア合作の映画「月曜日に乾杯!」。

2002年の作品。

原題「LUNDI MATIN」

監督・脚本オタール・イオセリアーニ、出演ジャック・ビドウ、あんぬ・クラヴズ=タルナヴスキ、ナルダ・ブランシェ、ラズラフ・キンスキー、ダト・タリエラシュヴィリほか。

先日テレビで観た「素敵な歌と舟がゆく」(1999年)に続くジョージア出身のオタール・イオセリアーニ監督作品。退屈な日常に嫌気が差した中年男性の気ままな旅を独特のユーモアでつづったコメディドラマ(デジタル・リマスター版)。

 

フランスの片田舎で暮らすヴァンサン(ジャック・ビドウ)は、毎朝5時に起き1時間半かけて工場へ通っている。工場では好きなタバコを吸うこともできず、単調な仕事をこなすだけ。家に帰れば妻から雑用ばかりいいつけられ、趣味の絵を描くこともままならない。

そんな毎日にうんざりした彼は、月曜の朝、突然仕事をさぼってあくせくした日常にサラナラとばかり旅に出る。水の都ヴェニスを訪れた彼は、意気投合した気のいい仲間たちと飲んだり歌ったりして自由を満喫する・・・。

 

素人を積極的に役者に登用するイオセリアーニ監督らしく、今回は映画・テレビのプロデューサーを本職とするジャック・ビドウが主人公の中年男を好演。イオセリアーニ監督は本作で2002年のベルリン国際映画祭銀熊賞(最優秀監督賞)と国際批評家連盟賞を受賞。

 

前作の「素敵な歌と舟はゆく」では父親の旅立ちで物語が終わっていたが、本作では父親の旅立ちから物語が始まっている。

本作のテーマについてイオセリアーニ監督は「孤独であることの不幸を描いた寓話」と語っているが、原題のフランス語のタイトル「LUNDI MATIN」は「月曜の朝」という意味。1週間の始まりである月曜日は、誰もが抱く憂うつな日であり、それは“孤独”の始まりの日であるのかもしれない。

本作の主人公ヴァンサンも孤独な人間。家にいても孤独だし、工場に行っても孤独。だが、それは彼にとどまらず、家で一人待つ妻も、彼の子どもたちもみな孤独で、ヴァンサンが遠く離れた地で出会う友人たちもまた孤独。

孤独でなくなるのはワインを飲みながら友人たちとすごす楽しいひとときだが、それもほんの束の間であり、旅から帰ると、妻はそっけなく出迎え、また孤独な日々が始まる。

それでも、ヴェニスに旅したことで、彼の心はちょっぴり軽くなる。

 

登場人物がとても個性的。

突如旅に出るヴァンサンも個性的だが、くわえタバコでスポーツカーを乗り回すおばあさん、覗きが趣味の好色な牧師、手紙を盗み読む郵便配達、ワニをペットみたいに連れたジプシー、女装したバーのトイレ番、教会の壁に聖ゲオルギオスのドラゴン退治の絵を描く青年など、みんな個性的で、孤独でいるなんてもったいないような人たちばかりなんだが、ひょっとしたら個性的であるがゆえにむしろ孤独でいるほうが好きなのでは?