善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

ナチュラルチーズ専門店 フェルミエ

すばらしいチーズに出会った。

ナチュラルチーズの専門店「Fermier(フェルミエ)」社長の本間るみ子さんとお会いする機会があり、お話を聞いて、またフェルミエのチーズを食べて、たちまち虜になってしまった。

地下鉄の虎ノ門から歩いて7~8分、曲垣平九郎が馬で石段を駆け上がった故事で知られる愛宕山(山頂に愛宕神社とNHKの放送博物館がある)を少し登った山の中腹にあるのがフェルミエ。(何だかそこだけパリの街角の風景)
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チーズのことなんて何も知らないでいたが、本間さんは知る人ぞ知る「チーズのカリスマ」として有名な人で、31歳のとき、日本で初めての輸入ナチュラルチーズの専門店フェルミエをオープンさせ、ナチュラルチーズがこれほどまで日本に広がったのはこの人のおかげなんだとか。

しかも、本間さんがこだわるのは農家の手作りのチーズ。フェルミエという意味からして「農家製」とか「手作り」というのだとか。

ふつうの輸入商社なら、チーズを作っている現地なんかに行かずとも、書類だけ右から左で済ましているかもしれないが、本間さんはフランスをはじめヨーロッパ各地の生産地へ出かけていって、手作りしている農家を一軒一軒訪ねて自分の目と舌で味を確かめ、作り方を確かめ、「作り手の顔の見えるチーズ」にこだわって輸入しているのだそうだ。

まあ、本当のところは、輸入ナチュラルチーズの店をオープンしたものの、若い女性が始めた店というので甘く見られたのか、国内の商社はなかなか相手にしてくれない。「キャッシュじゃなければダメ」とか、バカ高い値段を吹っかけられ、それならというのでだれもやろうとしないスキマをねらい、自分で道を開いて直接輸入を始めた。おかげで今の商売繁昌につながったというわけだが、こと食に関しては、そういう手間隙かけたやり方こそが実は正道だったのである。

いくつか試食させてもらったが、どれもおいしい。

モンドール・リエム」というのは柔らかいウオッシュ(熟成過程で表面を何度も洗う)タイプで、原料乳は牛。あたたかくしてスプーンですくって食べる。このチーズの故郷はフランスとスイスの国境、黄金の山の意味を持つモン・ドールの一帯。モミの木の一種であるエピセアの樹皮で巻いて固定させ、エピセアの棚の上で洗いながら熟成し、エピセアの木箱に入れて出荷する。やわらかく濃厚なミルクの味わいに、エピセアのさわやかな香りが独特の風味を与えているんだとか。

ミモレット・エクストラヴィエイユ」は羊が原料。固いハードタイプなんだけど、ミモレットとはフランス語で半分柔らかいという意味だそうで、若いうちはあまりクセがないが、熟成が進むにつれて濃厚さを増し、まるでカラスミのような味わいとなる。

「テット・ド・モワンヌ・モンターニュ」はまるで花が咲いているよう。専用の削り器「ジロール」にこのチーズを差し込み、ハンドルをくるくると回してチーズの上面をこすると、薄くひらひらと花びら状に削られてくる。12世紀、スイスとフランスの国境沿いのジュラ山地にあるベルレー修道院の僧侶によって作られたのが始まりで、「テット」は頭、「モアンヌ」は修道士で、「修道士の頭」という意味のユニークな名前。牛たちが放牧される時期に製造されるので、秋から冬にかけてが最もおいしいという。

試食したのがあまりにおいしくて、自宅用にも買って帰った。

1つは「コンテ・ド・モンターニュ18+」。ハードタイプで、原料乳は牛。
フランス人にもっとも親しまれているチーズだそうで、「当店でも人気№1です」と販売の女性がいっていた。熟成させるほど味が深くなるとかで、熟成18カ月というのを買った。値段は100グラム924円と高いことは高い。切り売りしてくれるというので100グラムほどに切ってもらって購入。ちなみにコンテ1個はかなりドデカイ。

もう1つは「オッソー・イラティ」。こちらは100グラム1103円。セミハードタイプで、原料乳は羊。
羊特有のうま味を持ちながら、ハチミツのような上品な甘味が残るのが特徴だとか。

さっそく夕食で食べてみると、ハードタイプなのに口の中に入れるととろける味わい。羊が原料の「オッソー・イラティ」も少しもクセがなく、食べやすい。
ああ、オレってこんなにチーズが好きだったのか、と思わせる味。もちろん、毎晩飲んでる日本酒にも合う。

本間さんが『チーズの文化誌』という本(河出書房新社刊)の中で述べているのを紹介しよう。

「私たちの消費するチーズは、無味乾燥な大量生産のものが主流になってきた。スーパーの棚にならんだ商品は、どれも見た目に美しいパッケージ入りのチーズが多い。しかし、その一方でナチュラル指向の人たちから支持されるのは、添加物のない伝統的手法で作られる無骨なチーズたちだ。
 代々受け継がれてきたチーズの作り手は減ってきたものの、存続させようと努力している人たちがいる。伝統が息づく滋味深い農家製チーズが二一世紀も続いていくよう、販売者の立場で応援していきたいと思っている」

そもそもチーズとは発酵食品。ミルクを乳酸菌で発酵させたりして、そこから水分を抜いたのがチーズ。新鮮なミルクからそのまま作ったのがナチュラルチーズ(ナチュラルチーズを加工したのがプロセスチーズ)。私たち日本人も昔から発酵食品とのつきあいは古い。日本酒だって発酵食品だから、きっと相性もいいに違いない。

うれしい話も聞いた。春が近づくと売り出されるという「ラ・ロッサ」というチーズ。サクラのチーズなんだとか。
塩漬けしたオオシマザクラの葉を日本から空輸し、イタリア・ピエモンテのチーズをその葉で包んだ1品。さわやかなチーズの酸味とサクラの香り、塩味が三位一体となって、春の味わいを楽しめるんだそうだが、ただし売り切れ御免。

フェルミエ(愛宕店)
東京都港区愛宕1-5-3愛宕ASビル
電話 03-5776-7722
営業時間 11時~19時
日曜祭日休み
(渋谷と札幌にも店がある)