スペインの赤ワイン「ソモンターノ・クリアンサ(SOMONTANO CRIANZA)2020」
(写真はこのあと鶏肉の塩焼き)
スペイン北部ソモンターノ地方のワイン造りをリードするワイナリー、エナーテの赤ワイン。
スペインの土着品種テンプラニーリョと国際品種カベルネ・ソーヴィニヨンをブレンド。
果実味が豊富での飲みごたえ十分の1本。
ワインの友で観たのは、U-NEXTで配信していたアメリカ映画「現金(げんなま)に体を張れ」。
1956年の作品。
原題「THE KILLING」
監督・脚本スタンリー・キューブリック、脚本ジム・トンプスン、音楽ジェラルド・フリード、撮影ルシアン・バラード、出演スターリング・ヘイドン、コーリン・グレイ、マリー・ウィンザー、エリシャ・クックJr、ヴィンス・エドワーズほか。

今から69年前、スタンリー・キューブリック監督(1928~1999年)が27歳のときにつくった犯罪映画。6月23日付東京新聞夕刊に本作の紹介記事が載っていて、それを読んで興味を持ったところ、U-NEXTで配信していると知って視聴した。
5年の服役を終えて出所したジョニー(スターリング・ヘイドン)は、競馬場から200万ドルの強奪を企てる。共犯者は、競馬場の5ドル売り場窓口で働く小心者の男、同じく競馬場のバーで働く病身の妻を抱えるバーテンダー、借金に苦しむ汚職警官など、いずれも人生に問題を抱えていてカネに目がくらんだメンメン。
大レースの本命馬をレース中に狙撃し、同時に競馬場のバーでケンカ騒ぎを起こして、警備員たちがそちらにかかりきりになったスキをねらって売上金の保管所に侵入して現金を強奪。仲間の汚職警官のパトカーに乗せて運び出そうという計画。
うまくいけば、捕まるのはバーでケンカする男だけで罪は軽いし、競走馬を狙撃しても殺人罪には問われない(競走馬は高価で捕まれば損害賠償が大変と思うが)。
ところが、仲間の1人が不仲の妻の気を引こうとうっかり強盗のことを漏らし、その妻が浮気相手に話したことから計画に狂いが生じてくる。
さらに、いざ決行すると、ここでも予想外の出来事が立て続けに起こる・・・。
アメリカの作家ライオネル・ホワイト(1905年~1985年)の犯罪小説「CLEAN BREAK」(1955年、訳書のタイトルは「逃走と死と」)が原作。
のちに「博士の異常な愛情」(1964年)「2001年宇宙の旅」(1968年)「時計じかけのオレンジ」(1971年)「シャイニング」(1980年)「フルメタル・ジャケット」(1987年)などをつくるスタンリー・キューブリック監督の駆け出しのころの作品で、ハリウッドでつくった最初の作品。
彼は本作で監督と撮影監督を一人でやりたかったらしいが、何せまだ新人監督だし、ハリウッドでは映画スタッフの職種ごとに組合があり、撮影監督組合から監督と撮影監督の両方を兼ねることはできないと横やりが入ったため、やむなくベテランの撮影監督であるルシアン・バラードを雇うことになる。撮影の間、キューブリックとバラードはしばしば衝突したという。
それでも、低予算にもかかわらずその後のキューブリック作品の原点を見るような出来ばえ。一瞬で仲間が死んでしまう銃撃シーンや、飛行機に載せようとした札束入りのスーツケースの蓋が開いて紙幣が夜空を舞うシーン(当時の飛行機がプロペラ機だったからこその戯画的描写だった)、2人の刑事が主人公の逮捕のため近づいてくるラストシーンなど、映画史に残るような名シーンが生まれた。
犯罪映画なのに観客を喜ばすコミカルチックなシーンもあり、競馬場の警備員たちとのケンカ騒ぎに登場するのはジョージア出身の元プロレスラーで体重280ポンド(約130㎏)のコラ・クワリアーニ。彼はチェスの選手でもあり、チェスを趣味にしていたキューブリックのチェス仲間だったという。ケンカの途中、上半身裸になってプロレス技を繰り出していた。
時系列をずらす描き方で、緊迫感を演出する脚本も見事だった。
キャスティングもよく考えていて、強盗の主犯、つまり主役を演じたのは196㎝の高身長で、どこかゲイリー・クーパーを彷彿させる憂いのある顔つきのスターリング・ヘイドン。彼は本作の2年前の「大砂塵」で放浪する男ジョニー・ギターを演じた。
主犯の男がハンサムで、彼の恋人役のコーリン・グレイも美人とくれば、観ている方としては感情移入してしまって、なぜか応援したくなる。
本作は、入念に練られたはずの計画が、ささいなミスから次々とほころびを見せていく物語。日常生活でも起こりうるような話でもあり、それだけについつい犯人たちに同情してハラハラドキドキしてしまう。
しかし、ついには挫折してみんな死んでしまって、主犯の男とその恋人も捕まってしまい、お札は風に舞ってすべてが無になって終わる。
上映時間85分で一気に見せるモノクロ作品。キューブリックの映画づくりのうまさが光っていた。
原題は「THE KILLING」。
直訳すれば「殺す」だが、「kill」はいろんな意味で使われていて、「make a Killing」は「大もうけする」の慣用句。
「I just made a killing in stocks!」は「株で大もうけしたよ!」という意味だとか。
「下克上」や「大番狂わせ」という意味で使われる「giant killing」は、「ジャックと豆の木」によく似た17世紀から伝わるイギリスの民話「jack the giant killer(巨人殺しのジャック)」から由来した表現といわれているそうだ。
ところで、最初にほころびを見せるのが犯人グループの男の妻が浮気相手に計画を教えてしまったことで、浮気相手の男はチンピラ風の悪いヤツ。カネの横取りを画策するのだが、その悪いヤツを演じるのがヴィンス・エドワーズ。
彼は本作のあともいくつかの映画やテレビドラマで主役級を演じるも特に目立つことはなく、俳優以外に歌手としても活躍。ビング・クロスビーに見出されて抜擢されたのが、本作から5年後の1961年からアメリカで放送が始まった「ベン・ケーシー」の主役ベン・ケーシーだった。
仕事一筋で妥協を嫌い、正義感にあふれる若き脳神経外科医の活躍を描くメディカル・ドラマであり、「ベン・ケーシー」は日本でもTBS系列で放送されて最高視聴率50・6%を記録。この数字は今もって日本で放映された海外ドラマの歴代最高視聴率だとか。