善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

きのうのワイン+映画「ブラックボックス 音声分析捜査」「明日なき追撃」

イタリア・トスカーナの赤ワイン「ヴィーノ・ノビレ・ディ・モンテプルチアーノ(VINO NOBILE DI MONTEPULCIANO)2019」

イタリア・トスカーナ州の銘醸地、モンテプルチアーノにある3つの畑のブドウを使用してつくられ、ブドウ品種はプルニョーロ・ジェンティーレ90%、メルロ100%。

ワイナリーのラ・ブラチェスカが位置するのは古代エトルリア、ローマ、そして中世ルネッサンス時代の面影を残す歴史ある土地で、古くからワイン造りが盛んなエリア。

1990年にブラッチ家が所有していた敷地をアンティノリが購入し、新しいワイナリーとしてスタートしている。

果実味とタンニンのバランスのとれた1本。

 

ワインの友で観たのは、民放のBSで放送していたフランス映画「ブラックボックス 音声分析捜査」。

2021年の作品。

原題「BOITE NOIRE」

監督・脚本ヤン・ゴズラン、出演ピエール・ニネ、ルー・ドゥ・ラージュ、アンドレ・デュソリエ、オリヴィエ・ラブルダンほか。

航空機搭載の音声記録装置(通称ブラックボックス)の分析官を主人公に、旅客機墜落事故の真相と航空機業界の闇を暴くサスペンススリラー。

 

ヨーロピアン航空の最新型機がアルプスで墜落し、乗客乗務員316人全員が死亡。さらに、事故機のフライトレコーダー、通称「ブラックボックス」を開いた航空事故調査局の音声分析官ポロック(オリヴィエ・ラブルダン)が、謎の失踪を遂げる。

ポロックから調査を引き継いだマチュー(ピエール・ニネ)は「コックピットに男が侵入した」と記者会見で発表。乗客にイスラム過激派と思われる男がいたことが判明したことで、マチューの分析は高く評価される。

ポロックに代わる責任者としてさらなる調査を続けるマチューは、被害者の一人が夫に残した事故直前の留守電を聞く。しかし、その音は、ブラックボックスに残された音とは違っていた・・・。

 

本作はフランス映画で初めて、フランス航空事故調査局(BEA)が全面バックアップしてつくられた映画という。それだけに実にリアルな描き方をしてしいる。

よく航空機事故で耳にするブラックボックスだが、実物は黒ではなくてオレンジ色。飛行機が墜落しても残がいの中から発見しやすくするためというが、機体が墜落したり炎上したりしても破損しないような素材と構造になっているほか、海に墜落しても回収できるように耐水性も備えていているという。

内部には飛行高度や速度などを記録したフライトデータレコーダー(FDR)と、コックピット内の音声を記録したコックピットボイスレコーダー(CVR)が内蔵されている。

映画では、回収したブラックボックス開封する場面が出てくるが、分析官の一挙手一投足の透明性が完全に保たれていることを証明するため、作業はすべてビデオで録画されている。

しかし、せっかくブラックボックスを回収して、フライトレコーダーの記録は正確に残っていたとしても、音声を記録したボイスレコーダーは不鮮明なことが多い。マイクの性能は格段によくなっているはずだが、エンジンや空調の音などがじゃましてコックピット内のパイロットたちの音声は聞き取りにく上、機体が乱気流などに巻き込まれて揺れたりすれば録音状態はさらに悪くなる。

そうしたボイスレコーダーに記録された聞き取りにくい音を聞いて分析する人たちがBEAという国家機関にはいて、それが音声分析官だ。

音声分析官は、聞き取りにくい劣悪な音声を解析ソフトを使って聴き取れるように調整し、何が起こっていたかを分析する。微妙な音のニュアンスを聴き分ける能力を持つ“耳の専門家”というわけだ。

そんな音声分析官の活躍を描くため、脚本は監督を含む3人が共同で担当したが、うち1人のニコラ・ブヴェ=ルヴラルはもともと映画の音声係が本職の人だという。

 

ついでにその前に観た映画。

NHKBSで放送していたアメリカ映画「明日なき追撃」。

1975年の作品。

原題「POSSE

製作・監督カーク・ダグラス、出演カーク・ダグラスブルース・ダーン、ボー・ホプキンス、ジェームズ・ステイシーほか。

テキサスを舞台に、政治的野心に燃える保安官が権力欲に溺れ民衆の信頼を失っていく異色の西部劇。

原題の「POSSE」とは、保安官が犯人捜索や治安維持などのために招集する警護団や民兵隊のことで、「一団」とか「集団」の意味もあるという。

 

19世紀のアメリカ西部。次期上院議員の座を狙う連邦保安官ナイチンゲールカーク・ダグラス)は、揃いの衣装の5人の助手を率いて専用の特別列車で各地をまわる日々。法と秩序を守るだけでなく、上院議員になるための宣伝にも熱心で、逃亡犯を捕まえるとお付きの写真屋に自分の活躍を撮らせ、行く先々でばらまいていた。

ところが、頭の切れる強盗ストロホーンを捕らえたことで思わぬ事態が・・・。

 

カーク・ダグラスが自ら製作を買って出て、監督もし、主演もつとめた。

脚本は「荒野の七人」(1960年)や「レッド・サン」(1971年)のウィリアム・ロバーツ

撮影は「タワーリング・インフェルノ」(1974年)でアカデミー撮影賞を受賞したフレッド・コーネカンプ。

音楽は「シベールの日曜日」「アラビアのロレンス」(いずれも1962年)「ドクトル・ジバゴ」(1965年)など多くの映画音楽を作曲したモーリス・ジャール

なかなか力を入れた作品で、カーク・ダグラスは本作によりベルリン国際映画祭金熊賞にノミネートされている(受賞したのはハンガリーの女性監督の作品)。

なぜこれほどまでにカーク・ダグラスはこの作品に力を入れたのか?

 

それは、この映画がつくられたときの時代背景と無縁とはいえないだろう。

本作が全米で公開されたのは1975年6月。

この年の4月30日、サイゴンが陥落して長く続いたベトナム戦争終結。すでにアメリカではベトナム戦争に対する反対の運動が高まっていて、サイゴン陥落でアメリカ軍は完全敗北を喫した。その3年前の1972年にはウォーターゲート事件が起こり、盗聴、侵入、司法妨害、証拠隠滅という“大統領の犯罪”が明らかとなり、74年にニクソン大統領は辞任に追い込まれている。

アメリカの信頼が揺らぎ、政治不信が渦巻いていたころであり、そんな時期に描いたのが、市民の代表として法を執行すべき立場の連邦保安官が、自らの権勢欲を優先させ、ついには失墜してしまった姿を描いた本作だった。

カーク・ダグラスは気骨の人だったのだろう。1957年にも、彼の製作・主演でスタンリー・キューブリック監督の「突撃」という映画をつくっているが、第一次世界大戦フランス軍を舞台に戦争の非人間性を描いた反戦映画だった。

言論・表現の自由を封殺する“赤狩り”で追われた脚本家のダルトン・トランボ(「ローマの休日」の脚本を別の人の名義で書いたことなどで知られる)の名誉回復のため一役買ったのもカーク・ダグラスだった。

トランプ大統領が誕生した2016年の大統領選挙の際は、当時100歳だったカーク・ダグラスは「トランプの正体は民主主義と敵対するファシストだ」と厳しく批判する意見を述べたという。

2020年2月、103歳で没。