スペイン・カタルーニャの赤ワイン「サン・ヴァレンティン・ガルナッチャ(SAN VALENTIN GARNACHA)2023」
メインの料理は殻付き生牡蠣+スペインの料理でポーリョ・コン・アホ(pollo con ajo)。
骨つき鶏を丸ごとのニンニクと一緒にオリーブオイルで揚げたもの。
ガルナッチャはスペインを代表する赤ワイン用ブドウ品種。
もともと、スペイン・カタルーニャのワインメーカー、トーレスのオーナーが、妻へのバレンタインのプレゼントとしてつくったワインだとか。愛情がこもったワインということか。
ワインの友で観たのは、民放のCSで放送していたイギリスのアニメ映画「ティム・バートンのコープス ブライド」。
2005年の作品。
原題「CORPSE BRIDE」
製作・監督ティム・バートン(マイク・ジョンソンとの共同監督)、声の出演ジョニー・デップ、ヘレナ・ボナム=カーター、エミリー・ワトソンほか。
ストップモーション・アニメーション(コマ撮り)によるダーク・ファンタジー・ラブストーリー。
19世紀イギリスのとある小さな村。成金の金持ちだが品格のない魚屋のヴァン・ドート夫妻の息子ヴィクター(声・ジョニー・デップ)と、由緒正しい身分ながら破産して一文無しの没落貴族であるエヴァーグロット夫妻の娘ヴィクトリア(声・エミリー・ワトソン)との結婚が、親同士の政略により決まった。
お互い逢ったこともなかった2人。結婚式の前日、式のリハーサルでドジなヴィクターは緊張の余り失敗の連続。怒った牧師に式の延期を言い渡されてしまい、ヴィクターは夜の森でひとり、結婚式の練習をする。
うっかりその辺に突き出ていた枝を花嫁ビクトリアの指に見たてて指輪をはめ、誓いの言葉を繰り返したところ、枝だと思っていたのは“コープス・ブライド(死体の花嫁)”の指だった。婚姻の誓いを受けたと勘違いしたコープス・ブライドのエミリー(声・ヘレナ・ボナム=カーター)は、彼を地中にある“死者の世界”に連れ去る・・・。
ティム・バートンは「バットマン」シリーズの監督としても知られるが、もともとアニメーションから出発した人。
「シザーハンズ」「チャーリーとチョコレート工場」などでジョニー・デップとタッグを組んでいて、本作はデップの声優初挑戦の作品。しかも、「チャーリーとチョコレート工場」と同時進行で製作されたという。
メルヘンでファンタジックなアニメの世界に引き込まれた。
人形を少しずつ動かしてコマ撮りしていくストップモーション・アニメーションの手法でつくられた作品。CGとはまるで違うリアル感があって、人形が人間みたいに生き生きと動いて見える。それでも、たった1秒か2秒の動きを撮影するのに10時間以上かかったというから、スタッフたちの根性と映画づくりへの愛情に感服する。
ストップモーション・アニメーションといえば、第一人者として知られる伝説の撮影監督レイ・ハリーハウゼンがいるが、ティム・バートンはハリーハウゼンの影響を多大に受けていて、本作を製作の際には製作チームを引き連れて85歳で現役だったハリーハウゼンにアドバイスをしてもらいに行ったとか。
隣り合う生者の世界と死者の世界を描いていて、生者の世界の花嫁と、死者の世界の花嫁、その間に立つ花婿の三角関係の物語。
生者の世界がモノトーンで陰鬱なのに対して、死者の世界は明るくファンキーでカラフルな世界となっているのは、監督一流の皮肉だろうか。
死者の世界では、生きているときのしがらみから解き放たれたためか、骸骨たちはにぎやかに歌い踊る。そんなパワフルな死者の世界に花婿はむしろ魅せられていってしまう。
映画の最後の方で、花婿は死者の世界に行きかけるものの何とか踏みとどまって生きている花嫁と結ばれる。そして、死んでいる花嫁コープス・ブライドも、実は彼女は結婚詐欺にあって結婚の夢を叶えられず殺されたのであり、生きていたころの復讐を果たせて、物語はハッピーに終わる。
本作には元ネタがあって、日本語のWikipediaでは「ロシアの民話を元にした作品」となっているが、正確には17世紀のユダヤの民話から監督がインスピレーションを得たものらしい。
元ネタとなったユダヤの民話とは「指(ザ・フィンガー)」と題する話で、映画の内容と似ている。
若い男が森の中で友人たちと結婚を祝っていると、人間の手に似た古い枝だと思ったものを見つける。冗談で彼は指輪を枝に置きながら、誓いの言葉を 3 回唱える。すると、それは死んだ人の指で、死体は立ち上がって彼を夫だと主張する。若い男は翌日結婚式を挙げるが、死体の花嫁が式に乱入して別の花嫁を娶ったことを非難。結局、長老たちは、彼が生きている花嫁に以前に婚約の誓いを立てており、死者が生きている者に対して権利を主張する前例がないため、死者との結婚は無効であると宣言する。
たとえ相手が死んだ人間であろうと、うっかりいいかげんな約束をしてはダメだよという警告の意味が、「指」という民話には込められているようだ。
だが、この民話には、さらに元となる話があるのだという。
それは「指」の話よりはるかに陰惨なもので、ヨーロッパでは歴史的にユダヤ人排除の動きがあり、結婚式に行く途中のユダヤ人が襲われることもしばしば。未来の子孫をつくるというので花嫁が殺されることもあった。花嫁姿のまま埋められた人たちのことを「コープス・ブライド(死体の花嫁)」と呼んだのだとか。
ひょっとしたら本作の監督ティム・バートンは、陰惨な元の物語のことを知っていて、映画化したかもしれない。
本作には唯一悪役が登場していて、それはカネ目当てに結婚詐欺を企む男で、エミリーを騙してコープス・ブライドにしてしまった張本人。この男はさらに結婚詐欺を働こうとして見破られ、毒入りのワインを飲んで死んでしまい、彼の所業に怒った死者たちによって死者の世界へと引きずり込まれていく。
もしかしたらティム・バートンは、「コープス・ブライド」をつくり出すユダヤ人排斥をイメージして、この悪徳詐欺師を登場させたのではないだろうか。
ついでにその前に観た映画。
民放の地上波で放送していたアメリカ映画「飛べ!フェニックス」。
1965年の作品。
原題「THE FLIGHT OF THE PHOENIX」
監督・製作ロバート・アルドリッチ、出演ジェームズ・スチュワート、リチャード・アッテンボロー、ハーディ・クリューガー、アーネスト・ボーグナイン、ピーター・フィンチほか。
砂漠に不時着した輸送機のパイロットと乗客たちが、絶望的な状況の中でいがみ合いながらも脱出を試みるサバイバル・アクション人間ドラマ。
石油会社の輸送機が砂嵐に遭遇し、サハラ砂漠の真っ只中に不時着する。操縦士フランク(ジェームズ・スチュワート)と航空士ルー(リチャード・アッテンボロー)は脱出策を練るが、機体は破損していて飛行は不可能。救援もやってこなくて犠牲者が相次ぐ。
そんな中、乗客として乗っていた航空技師ハインリッヒ(ハーディ・クリューガー)が壊れた機を新たな単発機に改造し、飛び立つことを提案する。生存者たちはフェニックス号と名づけた改造機に全てを託すが、実はハインリッヒは模型飛行機しか手がけたことのない設計者だった・・・。
2004年にリメイク作「フライト・オブ・フェニックス」も製作されているが、1964年にイギリスの小説家エルストン・トレヴァーが発表した同名小説が原作。
観ていてハラハラさせられたのが、模型飛行機しかつくったことのない男ハインリッヒが設計した飛行機が、果たして人を乗せて飛べるのかどうか。
ハインリッヒはいう。
「模型飛行機も人を乗せる飛行機も飛ぶ原理は同じだ。それに、人を乗せる飛行機は操縦士がいるけれど、模型飛行機は人が乗ってコントロールできないので飛ばすのは余計に難しいのだ」
そう聞くとナルホドと思ってしまう。
もうひとつハラハラしたのがプロペラを回すときのエンジンの始動のさせ方。1940年代当時、コフマン・エンジンスターター、別名ショットガンスターターと呼ばれるショットガンの弾薬ぐらいの大きさの火薬カートリッジを使って、ショットガンを撃つみたいにして火薬を爆発させてエンジンをスタートさせていた。カートリッジは6個ぐらいしかなくて、最初はなかなかエンジンが始動せず、「あと何個」と指折り数えながら繰り返すところが、ハラハラ・ドキドキ。
まさか今は航空機のエンジン始動はあんな方法じゃないと思うが。
小説は実際にあった飛行機事故を元ネタにしていて、それは第二次世界大戦中の1943年4月、アフリカ・リビアのサハラ砂漠であったアメリカ陸軍の重爆撃機B-24D が戦闘任務中に消息を絶った事故。この飛行機はナポリ爆撃後にリビアの基地に戻る途中、9人の乗組員を乗せたまま行方不明となり、地中海に墜落したと思われていた。ところが、戦後になって1958年11月、イギリス企業の石油探査チームがリビアの砂漠で偶然、残がいを発見。消息不明のB-24D 機と確認された。
調査の結果、同機は砂嵐による視界不良の中、南の砂漠に向かって何時間も飛行を続けたあと、燃料が尽きたため不時着。生存者は安全な場所まで歩いて行こうとして砂漠で死亡したことがわかった。
残された残骸は、胴体が折れただけで主翼とエンジンは無事だったことも判明。
この事実から、小説の作者エルストン・トレヴァーは、壊れた残がいをつなぎ合わせれば飛べる飛行機をつくれるのではないか、との着想を得たようだ。さらに、設計者を模型飛行機しかつくったことのない人物にして、話をおもしろくしようとしたのではないか。
ただし、映画では、実際に不時着したのとは違う機種で、C-82という双発・双胴の輸送機が登場している。本機は荷物の積み下ろしが容易になるよう胴体後部が2つに別れていて、これなら半分にすれば飛行機がもう1機つくれそうな気がしてくる。
「つくられそう」どころか、映画では実際に復元機がつくられて、それが撮影に使われているというから驚きだ。
ただし、C-82ではなく、C-82に似せてほかの航空機から部品を取り出してつくった「フェニックス・P -1」という飛行機で、実際に映画の空中シーンで使用された。米連邦航空局(FAA)認定の1機限りの機体だ。
残念なことに、この飛行機を使った撮影では痛ましい事故が起きている。
撮影のため、ハリウッド史上最高といわれたスタントパイロット、ポール・マンツ氏がジェームズ・スチュワート演じる機長のスタントマンとしてこの飛行機を操縦した。ところが、アメリカ・アリゾナ州の砂漠での撮影の際、マンツ氏が操縦するフェニックス・P -1は事故で墜落し、マンツ氏は亡くなった。一緒に乗っていたハーディ・クリューガーが演じる設計技師のスタントマンも重傷を負った。
このため、この部分の映像は使われず、またフェニックス・P -1が破損してしまったため、第二次世界大戦中にアメリカ陸軍で使用された単発のプロペラ機「ノースアメリカンO-47A」を改造した飛行機が代用機となり、フェニックス・P -1に似せて塗装されて映画の最後のシーに登場しているという。
映画の最後のクレジットでは、マンツ氏に敬意を表する言葉が表示されている。