東京・銀座メゾンエルメス10階にある40席のプライベートシネマ「ル・ステュディオ」でアメリカ映画「プリンセス・ブライド・ストーリー」を観る。
1987年の作品。
原題「THE PRINCESS BRIDE」
監督ロブ・ライナー、出演ケイリー・エルウェス、ロビン・ライト、ピーター・フォーク、クリス・サランドン、マンディ・パティンキン、ウォーレス・ショーン、アンドレ・ザ・ジャイアントほか。
キンポウゲという名前の娘と青年の恋をファンタジックに描いたアドベンチャー・ロマンス。
風邪をひいて部屋で退屈している少年に、祖父(ピーター・フォーク)が1冊の本を読み聞かせる。最初は嫌々ながら聞いていた少年も徐々に祖父の語り口に引き込まれ・・・。
昔々、フローリン王国にキンポウゲ(英名でバターカップ)という名の美しい娘(ロビン・ライト)がいた。彼女は農場で下働きをする青年ウェスリー(ケイリー・エルウェス)と愛を誓い合うが、結婚資金を稼ぐために旅に出たウェスリーは海賊に殺されたとの知らせが届く。
希望を失った彼女は、フンパーディング王子(クリス・サランドン)の求愛を受け入れるが、一儲けをたくらむ奇妙な3人組(ウォーレス・ショーン、マンディ・パティンキン、アンドレ・ザ・ジャイアント)に誘拐されてしまう。そこへ、謎の黒覆面の騎士がさっそうと現れるが・・・。
楽しくて、怖いところもあって、手に汗握りなおかつユーモアたっぷりの冒険活劇純愛物語ふうの映画に魅了された。
監督のロブ・ライナーは1947年生まれで、子役から出発して映画監督になった人。「スタンド・バイ・ミー」(1986年)「恋人たちの予感」(1989年)「ミザリー」(1990年)「ア・フュー・グッドメン」(1992年)「最高の人生の見つけ方」(2007年)などの監督でも知られる。
本作の特徴は、黒覆面の騎士が卑劣で極悪な王子から姫を奪還するという冒険ファンタジーを、爆笑しながら楽しめるとともに、祖父が読書嫌いな孫に中世の物語を読み聞かせるという二重構造になっていること。つまり、空想が膨らむおとぎ話と、読書のおもしろさを教えてくれる話とが見事にマッチングした映画になっている。
テレビゲームにばかり熱中する孫の男の子に、おとぎ話の本を読み聞かせるのは「刑事コロンボ」のピーター・フォーク。最初のころはおもしろくなさそうに聞いていた男の子は、次第に冒険活劇の物語に引き込まれ、夢中になり、映画の終わりには「おじいちゃん、あしたも本を読んで」とせがむ。するとおじいちゃんは微笑みながら、本作の主人公のセリフそのままに「as your wish(仰せの通りに)」と答える。なんとも粋な終わり方だった。
映画のところどころで名ゼリフも飛び出していて、脚本が秀逸。笑いのセンスも申し分ない。実は本作は作家・劇作家・脚本家のウィリアム・ゴールドマンが1973年に書いた長編小説「プリンセス・ブライド」が原作で、脚本もゴールドマン自身が担当している。彼は「動く標的」(1966年)「明日に向かって撃て」(1969年)「大統領の陰謀」(1976年)などの脚本も書いている。
キャスティングも見事だった。出演者で一番知名度があるのはピーター・フォークぐらいで、主な出演者は知らない俳優ばかり(本コラムの筆者だけが知らないだけかもしれないが)。
ヒロインのキンポウゲ(バターカップ)に抜擢されたのは映画初出演のロビン・ライトで、本作のとき20歳になったばかり。ウェスリー役のケアリー・エルウェスも当時23歳。往年の剣劇スター、エロール・フリンやダグラス・フェアバンクスを彷彿とさせる雰囲気とコメディセンスを兼ね備えているというので彼が選ばれたんだとか。
父親を殺した6本指の男に復讐を誓うスペイン人騎士のイニーゴ役で出演したマンディ・パティンキンも、どこか心優しい雰囲気があって、剣さばきともども魅力的だった。
怪力の巨人の役で登場したアンドレ・ザ・ジャイアントは現役のプロレスラー。公式プロフィールでは身長が7フィート4インチ(約223cm)、体重が520ポンド(約236kg)もあったとか。日本にもやってきていて、主にジャイアント馬場とタッグを組んで「大巨人コンビ」として活躍していたという。
そして何より、CG技術がない時代の映画だけに、巨大ネズミが主人公を襲うシーンを始め、特撮映像は手づくり感があり、見ていてなぜかホッとする。
主題歌として歌われた「Storybook Love」が心に残った。映画の帰り道、覚えやすいメロディーなので口ずさみながら銀座を歩いたが、ウィリー・デヴィル作曲のこの曲はアカデミー賞の歌曲賞にノミネートされ、彼はアカデミー賞の授賞式でこの曲を披露している。
ウィリー・デヴィルはアメリカのシンガーソングライターで、2009年にがんのため59歳で没。彼がつくり歌う曲からは、ラテンのリズム、ブルースのリフ(リフレイン)、ドゥーワップ、ケイジャン音楽、フランスのキャバレーの旋律、そして1960年代初期のアップタウン・ソウルの響きが聞き取れるという。
いずれにしろ本作は、現代人が忘れてしまったワクワク・ドキドキするような夢と冒険の世界に誘ってくれる映画だった。