先日、朝日新聞夕刊(6月8日付)を読んでいたら、高田郁(かおる)作の「みをつくし料理帖」(2009年刊)についての記事が載っていて、あの小説の主人公の澪(みお)のような人が旬の野菜を中心にした日本料理店を開いているというのを知った。
「みをつくし料理帖」は江戸時代の話で、作者は「口から摂るものだけが人の身体をつくる」ことを実体験で学び、「料理で人を幸せにする話を書きたい」と小説にしたという。
澪のような人がいる店とは、記事でも紹介されていたが、東京・渋谷区富ヶ谷の「七草」。
最寄り駅は京王井の頭線の駒場東大前駅で、西口を出て徒歩13分。ずいぶん歩くんだなと思ったら、「近道8分」と教えてくれた。
実はこのお店、東大教養学部のキャンパスのちょうど裏手にあり、キャンパス内を通り抜けると8分で行ける。
何10年ぶりかで学生気分でキャンパス内を通る。
昔ほどのハデさとないが、今もタテカン(立て看板)が健在だった。
店は大通り沿いにあるのでわかりやすい。
席数は全14席ということだが、客数を限定しているのか、けっこう広々としていて、個室気分で料理を楽しめる。
事前予約制で、料理はおまかせの献立。1人7200円(+消費税、サービス料5%)。
むろん飲み物は別途料金。
まずはビール。
「常陸野ネスト ホワイトエール」。
最初の料理はレタスのすり流し。
レタスとの組み合わせが意外だが、昔よくわが家でつくったカボチャとバターのポタージュに似ている。
そうか、現代の澪さんは、旬の野菜の味を大切にする和食に徹しつつも、和と洋を巧みに合わせたご自分の味を追求しているに違いない。
ビールのあとは日本酒。
飲んだのは、千葉の「甲子 吟醸」、山形の「ばくれん」、静岡の「喜久酔」、福島の「にいだしぜんしゅ」。
料理がおいしくて、ついつい酒も進んだ。酒は料理と共にあるのだから致し方ない。
特に最後の「にいだしぜんしゅ」は酒の原点のような飲み応え。
写真左はドライフルーツの干し杏と生麩の白和え。
白和えがとてもクリーミーでなおかつ味がしっかりしていて、絶品。よほど丁寧に水切りをして、豆腐の味を十分に引き出して滑らかにしているのだろう。
写真右は豆ご飯の笹巻き、卵焼き、空芯菜、合鴨、山科の唐辛子、新蓮根、なす、青梅のハチミツ煮?だったか。
梅の深い緑が美しかった。
エビの湯葉揚げ。上に乗っているのは、ハスイモ、小松菜。
深い緑の梅といい、ハスイモの切り口の美しさといい、料理は美だ。
オクラ、半白きゅうり。
写真では半白きゅうりの透明感が出てないので残念だが、みずみずしい味わい。
新牛蒡と実山椒、島ラッキョの揚げ物。
実山椒の衣で爽やかな辛み、後口さっぱり。これぞ和のスパイス。
ホワイトアスパラガスのムース、ホタテとキノコ(名前忘れた)。
楽しい味のコンサート。
イサキとはまぐり。
ベビーコーンとトウモロコシのお粥。
デザートは水無月。
ういろうに小豆をのせて固めた和菓子だが、とてもおいしいういろう。
この店のシェフで店主は前沢リカさんといって、料理界ではけっこう有名な人のようだが、決して気取ることなく「きょうの梅は失敗しちゃった」とかいっていた。
料理の歳時記にのっとり、旬の野菜や乾物を中心にした料理をつくり続けていて、食材の味そのものを感じてほしいと工夫を重ねているのだとか。
食材の味そのものを感じるとは、食材を産み出す自然を感じることに違いない。
自然はまだ未知のことだらけで、新しい発見はまだこれからいくらでもあるのだから、同じように新しい味の発見もあるはずだ。
食の喜びとは、今まで知らなかった自然を発見する喜びでもあるのかもしれない。