木曜日朝の善福寺公園は快晴。風もなく、穏やかな散歩日和。
葉っぱの散ったシダレザクラのてっぺんにジョウビタキのメスが飛んできた。
夏はシベリアなどで繁殖し、冬になると数千キロを旅して日本にやってくる冬鳥だ。
先日はちょっとだけとまったところを見たが、けさはジッととまって様子をうかがっている。
盛んにヒッヒッ、カッカッと鳴いている。
縄張り宣言として鳴くジョウビタキの地鳴きの声だ。
メスはオスと違って地味な色合いで、灰色味のある茶色のはずだが、けさのジョウビタキは朝日を全身に浴びてオレンジ色に見える。
お目目パッチリ、翼に白い斑点があり、紋付きのようだというので「紋付き鳥」の異名がある。
上池をめぐっていると、すぐ目の前にコサギがいた。
オスマシしているのでお顔を拝見。
上池を半周して下池に向かう。
途中、藪の中からウグイスの地鳴きが聞こえる。
このところ毎日のように聞こえるのが、なかなか姿を見せてくれない。
しかし、けさは違っていた。
やっと顔を出してくれた。今シーズン初のウグイス。
相変わらずすばしっこくて、すぐにまた藪の中に消えていった。
下池をめぐっていると、ふたたびジョウビタキの地鳴きが聞こえる。
枝の一番高いところに、今度はジョウビタキのオスだ。
尾っぽを細かく上下させながら、ヒッヒッ、カッカッと鳴いている。
最初のころ、尾っぽを振りながらカッカッと聞こえるので、尾を枝に打ちつけているのかと思ったら、鳴き声だった。
勘違いするのは現代人だけではなく、昔の人も同じように思ったらしい。
ジョウビタキの古名は単に「ヒタキ」で、文献上は清少納言の「枕草子」に登場するのが最初とされる。ということは「古事記」や「日本書紀」「万葉集」には出てこないというわけで、「ヒタキ」と名づけられたのは平安のころなのだろうか?
由来は、「カッカッ」という鳴き声が火打ち石を叩く音に似ているというので名づけられたという。
「枕草子」では「ひたき」と仮名で書かれてあるが、それより200年ぐらいのちの鎌倉時代後期に編まれた私撰和歌集「夫木和歌抄」には、初めて「火焼」と漢字が当てられた。
ひとつには鳴き声の「カッカッ」が火打ち石を叩く音に似ているということもあるだろうが、オスのジョウビタキの体のオレンジ色が燃える炎に似ているというのもあったみたいだ。
京都の神社では、例年11~12月ごろに行われる神事の1つに社前で火を焚く「お火焚き」と呼ばれる行事がある。
秋の実りに感謝し、厄除けを祈願するもので、その起源は、太陽の力が一年で最も弱まる冬至に合わせて行われ、その復活を願ったことに起因するともいわれている。
ジョウビコタキがシベリアから日本に飛来してくるのも、ちょうどこのころ。ジョウビタキのオレンジ色の姿を見て、さらにはカッカッと鳴く火打ち石を叩くような音を聞いて、「お火焚(火焼)き神事」を連想し、「ヒタキ」と名づけたのだろうか。
そして、いつのころからか「ヒタキ」は「ジョウビタキ」と呼ばれるようになる。
これは、ジョウビタキのオスの頭部の灰色をおじいさんの白髪になぞらえたとされるが、もともとは能に登場する老翁の面を尉(じょう)と呼んだのに由来するといわれている。
茶道にも「尉」があって、炭の火が尽きようとして元の姿のまま白い灰が崩れずにあるのをこう呼ぶのだそうだが、これも能の翁の面に由来しているといわれていて、ジョウビタキ同様、「火」にかかわっているところがおもしろい。
上池に戻ると、カワセミが近くにやってきた。
オスのマルちゃんかな、それとも若いシローくん?