善福寺公園めぐり

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アレン・エスケンス「過ちの雨が止む」

アレン・エスケンス「過ちの雨が止む」(務台夏子訳、創元推理文庫)を読む。

 

デビュー作である「償いの雪が降る」の続編。

といっても著者のアレン・エスケンスは年若い作家ではく、複数の大学で学んだあとの25年間、刑事専門の弁護士として働き、現在は引退。2014年に発表したのがデビュー作で、本作は2018年に発表した長編小説の第5作目だというが、デビュー作の主人公ジョー・タルバートのその後を描く続編となっている。邦訳は今年4月初版。

原題は「The Shadows We Hide」。

 

「償いの雪が降る」では大学生だったジョーが、本作では社会人になってAP通信の記者をしている。前作から5年の歳月がたっているというから、20代の終わりか30始めぐらいか。

だからこの小説は若者の成長物語でもある。

第一線の記者として働いていたある日のこと、自分と同じ名前の男の不審死を知らされる。

死んだ男は、ジョーが生まれてすぐに姿を消した顔も知らない実父かもしれない。ジョーは殺人の疑いがあるという事件に興味を抱いて現場の町へ向かい、多数の人々から恨まれていたその男の死の謎に挑むが・・・。

 

自分が生まれる前に姿を消した、母親にいわせれば「ろくでもないくそ野郎」の父親探しと、アルコール依存症でなおかつ薬物依存でボロボロとなり絶縁した母親との関係修復、さらには自閉症の弟と、彼が愛した司法試験に挑む女性との関係などが複雑に入り組むが、主とした物語の舞台は、死んだ父親かもしれない男が暮していたミネソタ州キャスペン郡のバックリーという町で、そこでジョーはさまざまな人と出会い、事件のナゾを解いていく。

いかにもミステリーらしいナゾ解きと、父親探し、母との葛藤が複雑に絡み合って、物語に厚みを加えていて、読みごたえがある。

何より一人語りで進む文章が読みやすくて、するすると読める。著者のアレン・エスケンスの文才によるものだろうが、日本語で読んでる身としては訳者である務台夏子さんの功績を称えたい。

前作でも最後は泣けてきたが、本作でもさわやかな涙で本を閉じた。

秋の柔らかな日差しを浴びながら本を読んで泣けるなんて、何だかうれしい気分になる。