善福寺公園めぐり

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久々の一気読み 「娘を呑んだ道」

ティーナ・ジャクソン「娘を呑んだ道」(訳・田口俊樹、小学館文庫)を読む。

 

去年9月に出版された本だが、おもしろそうなので手にとる。

読み始めたらとまらなくなり、久々に一気読み。

3年前、17歳の愛娘が行方不明になり、警察の捜査もむなしく迷宮入りとなって一人孤独の捜索を続ける父親が主人公の物語。ティーナ・ジャクソという女性作家が36歳のときに書いたミステリー長編のデビュー作で、父親の悲痛な思いがひしひしと伝わってくる暗~い展開だが、最後は心温まる終わり方でほっとする。

 

原題は「The Silver Road」。

スウェーデン北部の森林地帯を走る国道95号線(通称・シルバーロード)が舞台。首都ストックホルムからは北へおよそ700キロ、北極圏に隣接するエリアで、夏になれば白夜が訪れ、冬は一面雪に覆われるようなところ。あたりは森と湖ばかりで、沿道には人家はまばらにしかないという。

3年前、父親は娘をバス停まで送り届けたが、バスの到着時刻の15分も前にバス停に着いてしまった。父親はそのまま娘と別れたが、バスが到着するまでのわずか15分の間に娘は行方不明になってしまった。

何で早くバス停に着いてしまったのか、何で娘がバスに乗るまで見守ってやらなかったのか、父親はまるで自分が犯人の片割れのように思えて、良心の呵責に苛まされながら、妻とも離婚し、何かに取りつかれたように「シルバーロード」を車で走りながら娘の行方を探し続けている。

同じころ、「シルバーロード」に流れ着いた母娘がいた。その娘は失踪した娘と同じくらいの年齢。母親は精神が不安定で、男に依存して生きているような女性。娘は、そんな母の生き方に嫌悪している。

全体の3分の2ぐらいは行方不明の娘を探す父の物語と、母とともに流れ着いた娘の物語とが脈絡もなく交互に綴られていくが、やがて新たな少女の失踪事件が起こり、話はひとつにつながっていく・・・。

 

暗くて怖いミステリーなのに文章が美しい。

自然の描写も美しいが、登場人物たちの心理描写も巧みで、目に心地よい文章に彩られている。作者のティーナ・ジャクソンの洞察の深さゆえだろう。

あるいは、本書は2018年にスウェーデンで刊行された本の英語版を訳したものというから、スウェーデン語から英語というワンクッションを置いたおかげで、日本語訳がより日本人にわかりやすい表現に変わっていった可能性もあるのでは?とも思った。

もちろん、訳者の田口俊ローレンス・ブロックをはじめとするミステリー小説の翻訳の第一人者。文章表現のうまさにあらためて感服した。

 

著者のスティーナ・ジャクソンは1983年生まれで今年38歳。本書の舞台である「シルバーロード」に位置するスウェーデン北部の町シェレフテオ生まれという。

本作がデビュー作で、2020年には「Ödesmark」と題する第2長編を発表しているという。田口俊訳の続編に期待ものだ。